コラム

2018.11.02

TIリテラシーのコラム第11弾「Answer to Survive : Human w/ Machine」


「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」にスポットを当てたコラム企画の第11弾です。
今年8月のForbesに、”Will Machine Learning AI Make Human Translators An Endangered Species?”という記事がありました。海外の有名誌にこのような記事があると、リテラシーの浸透していない日本では、「ねぇ、知ってた?翻訳者は不要になるんだって!」となってしまいがちです。

しかし、Forbesの記事の真意はそうではありません。この記事は、下記の一文で締め括られています。
“One thing seems certain, however - hiding your head in the sand and pretending that none of this is happening is a recipe for unemployment.”まずは現実逃避をやめて、AI(人工知能)による機械翻訳で今何が起こっているのかを理解することが必要です。

Why Is TI Literacy Low in Japan?

ケース1:先日ある番組で、「むかしむかしあるところに・・・」と自動音声翻訳器に話しかけ、機械翻訳がうまくいかなかった際、「やっぱり機械翻訳はダメだな」というような意見が挙がっていました。

筆者の疑問:この番組はそもそも音声が機械に認識されなかった可能性については触れませんでした。はたして、「発話者の話し方に問題は無かった」と言い切れるでしょうか。

ケース2:一方、別の番組では、訪日外国人の旅行者が翻訳アプリを使用して、日本各地を観光している様子を取材し、「今の翻訳機はすごい。もう翻訳者はいらなくなる。」と報道するものもありました。

筆者の疑問:翻訳の市場を少しリサーチすればわかりますが、翻訳者が翻訳するのは、外国人観光客の使うフレーズではありません。つながらない断片的事実をこじつけるのはなぜでしょうか。

これらは、リテラシーが欠けている際によく見られるケースです。そして、あまりに表層的過ぎて危険です。このまま日本人がディープ・ラーニングで進化し続けるAIへの理解を怠れば、「AIにより消える職業」が深刻化するのは必至です。

What is Happening Inside Machines?

例えば、ケース1の場合には、①「音声(日本語)」を「テキスト(文字)(日本語)」として認識するというプロセスがあり、②その文字を、「ST(Source Text)(日本語)」から「TT(Target Text)(英語)」へ翻訳し、③その「TT(TargetText)(英語)」を「音声(英語)」として訳出するという流れがあります。機械からしてみれば、まずは「認識可能な音声が欲しい」というところでしょう。実際、音声翻訳に限らず、Siri等で「音声認識時点でのつまずき」は多くの方が経験されていると思います。

また、ケース2の場合ですが、海外旅行でよく使うフレーズ等であれば、正しい訳出が可能となります。だからと言って、全ての(正しい)訳出が可能なわけではありません。いかにその幅を広げるのかが今後の研究課題となります。なお、ディープ・ラーニングは大量のデータを必要とします。データが増えれば増えるほど、AIがより学べる環境となり、翻訳の精度が高まります。本来は、人間も大量のinputを必要とします。そうでなければ、outputの精度が下がるからです。経験値が浅く、判断材料も少なく、リテラシーも無いとなれば、機械以下のoutputをする人間で溢れる可能性も否定できなくなります。

What Machines Can Do

最近の機械翻訳について簡単にまとめると、下記のようになります。

 1:機械翻訳の精度はかなり高くなった。
 2:現段階では、機械にはできることとできないことがある。
 3: 機械にできない部分を人が補う等、機械と人との共存が望ましい。

例1:日本語→英語

日本語:海外のMeetings Industryでは、コアPCO等を中心にデータ分析が活発に行われており、業界のトレンドも各社によってまとめられています。(MICE Japan 2018・9月号より)

英語:In overseas Meetings Industry, data analysis is actively conducted mainly on core PCO etc., industry trends are summarized by each company.(Google翻訳の日本語テキスト入力による英語訳出)

解説:日本語と英語を見比べていただくとわかるように、機械は理解可能なものを訳出しています。

また、機械翻訳の良いところは、瞬時にできること、そして単語を落とさないことです。そのため、製品マニュアル等、大量の翻訳が発生する場合に、機械翻訳を用いられるケースが多々あります。ただし、機械翻訳のままでは納品できないため、人によるポストエディット等が行われます。

例2:英語→日本語

英語:ELECTION DAY(筆者のスケジュール帳より)

日本語:選挙日(Google Translationアプリのカメラモード使用によるテキスト認識)

解説:図1の写真は、英語で書かれたスケジュール帳を、Google Translationアプリのカメラモードで撮影したものです。図2の写真は、アプリがテキストとして認識したもののうち訳出したいものを指で選択し、ST(Source Text)とTT(Target Text)の両方を画面に表示したものです。ハングル文字やアラビア文字等、テキスト入力が困難な場合、カメラを使用すれば良いため、より有効となります。

番外編:コンピュータによる自動通訳

日本通訳翻訳学会第 19 回年次大会が、9月8日、9日の2日間、関西大学で開催されました。基調講演は、奈良先端科学技術大学院大学教授の中村哲氏によるもので、「コンピュータによる自動通訳を目指して」というタイトルで行われました。

筆者をはじめ、機械翻訳や機械による逐次通訳は可能だとしても、機械が同時通訳を行うのは不可能だと思われる方は、けっこうな数でいらっしゃるでしょう。実際、講演後の質疑応答で、鳥飼久美子氏(日本通訳翻訳学会 元会長)が「同時通訳は機械にはできないと思っていた」と述べた上で、今回の基調講演で機械が同時通訳をする方法を聞いて驚いたというコメントがありました。

講演中に説明があったのですが、機械による同時通訳はまだ研究段階です。また、言語(英語からフランス語なのか、英語から日本語なのか等)によっても精度は異なります。

What Humans Can Do

このような状況で、私達の考えるべきことは何でしょう。それは、いかに機械との差別化を図るかです。「差別化=機械を使わないこと」と勘違いしている人達が多いように感じます。正しい差別化を行うためには、機械ができることと人間ができること、そしてその違いを理解する必要があります。

今の日本では、一部を除き、翻訳業界でさえそれができているのか疑問です。Google翻訳は無料で使用できます。訳出は一瞬です。それでも、翻訳を行うのが人間でなければならない、もしくは人間の方がより良い場面は存在します。特に文芸翻訳等がそれにあたります。差別化は行った上で、機械と人間が共存する、それがあるべき未来の姿なのです。Human vs Machineという考え方から、Human with Machineという考え方にシフトできた時、私達が生き残る道が見えてくるのではないでしょうか。

Next

次回は、人工知能(AI)の時代に突入した機械翻訳についてです。次回はこれまでのまとめとして、TIリテラシーが国際競争力にどうつながるのかを考えたいと思います。

References

東川 静香

日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員

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