コラム
2025.12.16
2025年大阪・関西万博「いのちの遊び場 クラゲ館」の運営に参画 ― プロデューサー 中島さち子氏インタビュー
日本コンベンションサービス(JCS)はこれまで、さまざまなMICEの現場で、誰もが安心して働き・参加できる環境づくりに向けた実証を積み重ね、ビジネスイベントにおける多様性を生かした運営について、ノウハウを蓄積してきました。
2025年大阪・関西万博「いのちの遊び場 クラゲ館(以下、「クラゲ館」)」は、誰もが参加し、学び合える“インクルーシブ”な場を目指してつくられました。クラゲ館で当社は、これまでの知見を生かし、「インクルージョン」をテーマとする運営に参画しました。
ここでは、クラゲ館での実践を通じて見えてきた「ダイバーシティのかたち」を、現場スタッフの体験やプロデューサーの理念を交えながらご紹介します。
第2弾となる本稿では、クラゲ館のプロデューサー・中島さち子氏へのインタビューをもとに、「遊び心」「インクルージョン」「共創」という理念がどのように形になったのかをご紹介します。理念を社会に実装するための工夫は、ビジネスイベントにおけるダイバーシティを尊重した運営を考えるうえでも多くの示唆を与えてくれます。
創造性を広げる「遊び心」
クラゲ館の中心にある考え方は「創造性の民主化」です。中島氏は、創造性は特定の人に限られた才能ではなく、誰もが持つ力だと強調します。
「私たちは『流動的に(ゆらぎをもって)遊ぶ』という発想と、身体的な体験の重要性に注目しました。本当の創造性は、固定的なルールに縛られず、変化する状況の中で自由に探究する=遊ぶときに生まれるのです。」
館内では、石や土をじっと観察したり、石や土や世界の楽器や変なジェル状のものにいろんな方法で触れて奏でようとしたりする子どもの姿など、日常の小さな行為に創造性が潜んでいることを来場者が実感できる仕掛けが施されています。
インクルージョンを空間にデザインする
もう一つの柱が「インクルージョン」です。クラゲ館は直線的な壁を避け、曲線を多用した設計により、風や音が自然に流れる空間を実現しました。また、車いす利用者がスタッフになる、重度な障害や病気がある方がボランティアになる、聞こえない方の音楽ワークショップがある、見えない方向けの案内や触地図がある、いろんな学校やシニアの施設や病院や福祉施設が参加して壁や展示物が生まれる、など、迎える側も来場者も誰もが自分なりの関わり方を選べる工夫が盛り込まれています。
さらに、入院中の子どもたちをオンラインでパビリオンとつないだものづくりワークショップなども行いました。言葉を交わさなくても、リズムや表情、ものづくりの喜びを通して気持ちを共有できることがわかったのです。
「コミュニケーションは言葉だけに限られません。人は他のいろんな身体的な感覚を通じても自己表現や交流ができるのです。」と中島氏は語ります。
未来のコミュニケーションを試作する
準備段階から、多様な年齢や背景を持つ人々を巻き込みワークショップを重ねたこと自体が、社会が違いを超えて学び、共創するモデルになりました。みんなでつくった、詠み人知らずのクラゲ館のシンボルロゴは、その象徴です。
「多様性が自然に溶け合うインクルーシブな協奏空間をデザインすることが、未来のコミュニケーションには不可欠です。」
クラゲ館は単なる展示施設ではなく、未来社会の「モデル」です。多様性は制約ではなく可能性の源であり、新しい発想や協働を生み出す力となります。
次世代へのメッセージ
最後に中島氏は次世代に向けてこう語ります。
「固定的な答えや前例に縛られないでください。差別の多くは悪意ではなく、”知らない”から、配慮が欠如し、生まれます。いろんな知恵や視点を分かち合うことで、誰もが自由に多様な選択ができる社会をデザインできるのです。」
中島氏の言葉は、理念を現実の場に落とし込むことで「インクルーシブな場づくり」が可能になることを示しています。JCSは、この経験から得た知見を次につなげ、ダイバーシティを生かしたビジネスイベントの実現に取り組んでまいります。