コラム

2018.03.05

TIリテラシーのコラム第4弾「G11N(Globalization)in the Meetings Industry」


「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」にスポットを当てたコラム企画の第4弾です。
グローバリゼーションにより市場が拡大され、我々のビジネスの場も国内だけではなくなってきました。この動きは、確実にMeetings Industryにも広がっていると、2月に開催された「JNTO-INCON Meetings Industry Seminar」で、改めて感じました。このセミナーでは、INCON(International Conference Network Limited)の外国人講師3名による講演がありました。

主な内容としては、ビッド・ストラテジー(国際会議を日本に誘致する際の戦略)に関するものでした。日本で開催される国際会議は日本のPCOが運営する、そう思われる方が多いでしょう。しかし、コアPCO(後述)の出現により、日本で開催される国際会議であっても、海外のPCOが運営するという動きが近年見られるようになりました。JNTOはコアPCOを下記の通りとしています。
「国際学会や協会の本部と契約して、その学会や協会が主催する国際会議等の企画や準備に携わるPCO(会議運営専門会社)。会議の当日運営については、開催各国の現地 PCO の協力を得て行うことが多い。代表的コア PCO には Kenes International や MCI といった会社が挙げられる。このセミナーに出席して改めて、グローバリゼーションが進むこの業界で、必要な人材の要素を考えてみました。国際競争力という面では、下記が該当するかと思います。

  1. 言語能力
  2. リサーチ能力
  3. 判断力
  4. 行動力

それでは、この業界における4つの能力をそれぞれ考えてみ たいと思います。

 What’s Linguistic Competence?

CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)が定めるLinguistic Competenceは下記の通りです。

  • Reception (Listening/Reading)
  • Production (Speaking/Writing)
  • Interaction (Speaking/Writing)
  • Mediation (Translation/Interpreting)

この中でも、4つ目のMediation(仲介)能力(翻訳/通訳)に注目したいと思います。著書『新・観光立国論【実践編】世界一訪れたい日本のつくりかた』の中で、JNTO特別顧問のデービッド・アトキンソン氏は下記の通り述べています。
 「(前略)外国人観光客へ向けて日本のPRを行うホームページ、(中略)文化財などの観光スポットの解説やガイドを、外国人目線で整備することです。」また、この目線が単に翻訳のネイティブチェックを行うだけでは解決できないという事も、下記のように述べられています。
 「ネイティブチェックされた案内や解説によって、これまでのような違和感や理解不能という問題は解消されましたが、そこで新たな次元の問題が浮かび上がったのです。(中略)『単語、文章としては理解できても、それが何について述べられているのかがわからない』という問題です。」
この事からも、翻訳通訳のヘビーユーザとなるこの業界の人達にとって、TI(翻訳通訳)リテラシーが、翻訳通訳能力を高める目的ではなく、一般教養として必要である事がご理解いただけるかと思います。

 What’s Research Skill?

Researchということばは、“Oxford living Dictionary”では下記の通り定義されています。
“The systematic investigation into and study of materials and sources in order to establish facts and reach new conclusions.”
このように、リサーチとはただ何かを調べるだけではなく、「情報源までをも遡り、分析力を通じた新たな提案ができること」をも含みます。また、前述の著書でアトキンソン氏は「観光庁に求められること」として、「データ分析機能」を挙げ、下記の通り述べています。
「世界各国の観光産業の競争は、ほぼこのデータ分析にかかっている(中略)私が先ほどから必要性を指摘している『国別誘致目標』に関しても、マクロ分析によってある程度の答えは見えてきますが、今はそういう分析をすること自体、時代遅れとなりつつあります。」
このように、リサーチを単なるタスクとしてではなく、戦略として捉える事が、今後より一層重要となってくるのではないでしょうか。

 What’s Good Judgement?

2017年に私が執筆した修士論文のインタビューで、MCIJCS Japan株式会社の新井立夫氏は、この業界で必要とされる人材について、下記の通り述べています。
「一番は臨機応変に対応出来る人。(中略)順応性の高い人。正確性の高い人。しかし、完璧主義ではいけない。(中略)まずいた時に困るので、切り替えて柔軟に対応出来る人。(中略)優先順位がつけられる人。」
これは、時と場合によってプライオリティを見極める、そのような判断力を持つ事だと思います。また新井氏は、下記のように続けています。
「国内学会で作っているチェック項目は700くらいある。」
国際会議ではこれを多言語で対応するのですから、さらに多くの項目が追加されます。そのような中で、1つプライオリティを間違える事が命取りになりかねない事は、みなさん周知の通りでしょう。

 What’s Energy?

これは、今までの3つの能力を理解した上で、実行に移せる能力であると思います。前述のインタビューの中で、新井氏は国際会議について下記の通り述べています。
「何が起こるかわからない場面で、マニュアルや進行台本どおりに行かない事が必ず起こる。100%うまくいく事はない。当日に至るまで、また当日の裏方の部分ではたくさん突発的な事が起こる。」
各国からのVIPsが集まる国際会議では、本当にいろいろな事が起こります。講演者が急に来日不可になったり、入国できなかったり、我々ではもうどうしようもない事が、今までにもたくさんありました。その度に、“Then, what should we do?”を考えてきました。できる事は何かを考え、実行する。国際会議運営では、ポジティブな姿勢が常に求められると思います。危機に直面した時こそ、前述の3つの能力を実行する事が求められると考えます。

What are Global Languages?

さて、ここで改めてグローバリゼーションにおける言語について考えてみたいと思います。世界経済フォーラム(World Economic Forum)による“These are the most powerful languages in the world”という記事で取り上げられている “Power Language Index ranking (top 10)”を見てみましょう。

  1. English
  2. Mandarin
  3. French
  4. Spanish
  5. Arabic
  6. Russian
  7. German
  8. Japanese
  9. Portuguese
  10. Hindi

話されている人口だけに注目すると中国語が上位となりますが、世界経済フォーラムでは、経済的効果等も考慮してこのランキングを作成しています。このランキングから読み取るべき事は、母語の日本語は勿論、それに加え英語、さらには英語以外の言語能力にも注力する事で、日本の国際競争力はさらに高まるという事だと思います。なぜなら、多言語の背景には多文化があり、その多文化を学ぶ事で改めて多文化共生を考える事ができるからです。

What Should Be Our Goal?

PCOの仕事は多岐にわたるため、膨大な作業も発生します。そのため、点として物事を見てしまい視野が限定されると、なぜこの仕事をしているのかという大義を見失いがちになります。私が修士論文を執筆した理由は、そのような時に「自分が行っていることをメタ的に見て考える」力を養えるための教材作成及び体系的教育でした。

前述した通り、我々の業界でもグローバリゼーションが進んでいます。その中で、ビッド・ストラテジーを考え、実行する事が非常に重要となってきます。各会社や組織という枠を超え、グローバリゼーションを行う事で、我々は「強い日本」を築けるのではないでしょうか。

セミナーでは、INCONの外国人講師をはじめ、会議場やビューロー等の多くの人達と話す機会がありました。その際、日本全体が一丸となって国際会議誘致に臨む事が、ビッド・ストラテジーにつながるのだと、強く感じました。また、前述した4つの能力を、次世代に伝え対話する事、即ち教育により我々は国際競争力をより高める事ができると信じています。なぜなら、グローバリゼーションにおける真の国際競争力のあるべき姿とは、異なるアイデンティティが交錯する中で、時に相反したとしても、最終的にはお互いを高め合い、共存方法を模索する事だと考えるからです。

Next

次回は、日本がMeetings Industryにおける世界のDestinationとなるために、我々がいったい何をすべきなのかを考えたいと思います。

References

デービッド・アトキンソン(2017) 『新・観光立国論【実践編】 
世界一訪れたい日本のつくりかた』東洋経済新報社
Kai Chan (2016) These are the most powerful languages in the world World Economic Forum
東川静香(2017) 『国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学

東川 静香

日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員

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