コラム

2026.03.26

【セミナーレポート】地域の価値をどう循環させるか「新・文化インフラ」が描く次世代の地域モデル


2026年2月18日、福岡の新たな文化発信拠点「THE KEGO CLUB by HAPPO-EN」にて、セミナー「新・文化インフラをつくる―リレーションシップから始まる場・コト・モノの社会実装―」(主催:やましたLLC、企画プロデュース:株式会社⼋芳園エリアプロデュース警固)が開催されました。本記事では、イベントの締めくくりとして行われたクロージングセッションの模様をレポートします。

登壇したのは、株式会社八芳園の井上義則代表取締役社長と、日本コンベンションサービス株式会社(JCS)の執行役員・大和田雅人です。モデレーターに、やましたLLC CEOの山下裕乃氏を迎え、次世代の地域循環を支える新たな仕組みづくりについて、具体的な道筋が議論されました。

なぜ今、「新・文化インフラ」が必要なのか

セッションの冒頭、井上社長から本セミナーのメインテーマである「新・文化インフラ」の定義とその必要性が語られました。道路や橋といった物理的なインフラ整備、あるいは効率性を最優先した成長モデルは限界を迎えていると指摘します。今、地域や企業に求められているのは、その土地の「存在意義(パーパス)」や価値観を形にすることに他なりません。

提唱する「新・文化インフラ」とは、こうした価値観を起点に、人と人、産業と産業をリレーションシップ(関係性)によって結びつけ、持続可能な社会基盤として実装していくプロセスそのものを指します。

文化を単に守るべき「過去の遺産」とするのではなく、現代の価値観に合わせた物語や地域の誇りとして捉え直し、経済活動とリンクさせて循環させる。「価値観を形にし、関係性をインフラとして機能させる構造」こそが、次世代の地域を支える本質であると語られました。

JCSが示す実装モデル「拡張型MICE」

井上社長が提唱する「新・文化インフラ」の思想と多くの接点を持つアプローチとして、JCSの大和田は、コンベンション運営の枠を超えたMICE(国際会議・展示会など)の新たな実装モデルを提示しました。
1967年の創業以来、日本初のコンベンション運営会社として「人が集う仕組み」を創出してきたJCSにとって、そのノウハウを地域活性にどう還元するかは重要なテーマのひとつです。大和田は、MICEを一過性の賑わいで終わらせるのではなく、地域の課題解決や産業活性へと接続し、持続的な価値を生み出した具体的な事例を紹介しました。

市民参加による「場」の開放と経済循環の創出

宮城・仙台で開催された第32回日本乳癌学会学術総会では、隣接する公園を活用し、地域住民がビジネスイベントに参画する仕組み「Park MICE(※)」を実施しました。具体的には、地元食材や地酒を楽しめる1,000人規模のガーデンパーティーを開催し、着付けや茶道などの日本文化体験を通じて外国人参加者と市民が交流する場を創出。あわせて、「検診で命が救われた」という市民からの感謝のメッセージをドクターへ直接届ける企画も実施しました。

さらに、学会用に設営した夜間ライトアップ演出を、終了後に市と連携して一般市民にも開放。市民の活動をMICEの場に結びつけ、新たな経済循環を生み出すこの取り組みは、観光庁の「国際会議開催地としての魅力向上実証事業」にも採択されました。
※「Park MICE」は、⽇本コンベンションサービス株式会社の登録商標。2024年1⽉取得済み。

「株式会社八芳園エリアプロデュース警固」が担う役割

「新・文化インフラ」を社会実装するもう一つのアプローチとして紹介されたのが、「株式会社八芳園エリアプロデュース警固」の取り組みです。宿泊施設を持たない八芳園だからこそ、既存のホテルや地域資源とフラットに接続する「プロデューサー」の役割を担えるとし、以下のプロジェクトを紹介しました。

伝統工芸を現代へつなぐ「文化の再編集」

本施設内には、福岡県大川市の伝統工芸「大川組子」にLED照明を組み合わせた装飾が用いられています。このように、伝統工芸を現代の空間やライフスタイルに馴染む形へアップデートし、新たな価値を創出することで、文化を次世代へつなぐ仕組みを構築しています。

地域名を冠した拠点設計

警固神社と連携して「福岡天神文化体験拠点」という戦略を掲げているように、地域の名前を冠した拠点を設けることで、神社仏閣を「特別な体験ができる場所(ユニークベニュー)」としてブランディング。これにより、普段は立ち入ることのできない神聖な空間を、国際会議のレセプションや文化体験の場として開き、地域の魅力を世界へ発信しています。

井上社長は、「地域の方々が自分の街に誇りを持てるようになること、そして次世代の継承者が『親の仕事を継ぎたい』と思える物語を作ることが核である」と説き、福岡という仲間づくりに長けたエリアでの社会実装に強い意欲を示しました。

福岡・九州から広がるコミュニティの可能性

対談の中で、井上社長と大和田の双方が共通して高く評価したのは「福岡のポテンシャル」です。大和田は、福岡への事業進出を決めた最大の要因は「人」であるとし、福岡の人々が持つフレンドリーさや、新しいものへの感度の高さ、自らコミュニティを広げる「紹介上手」な性質に言及しました。

井上社長もこれに同意し、「福岡と九州という言葉が常にリンクして語られる強み」を指摘。福岡での成功モデルを九州全域へと波及させ、「あそこに行けば面白い日本がある」という体験価値を確立することで、国際的な文化交流を九州から加速させられると展望を語りました。

連携が育む、持続可能な地域循環の未来へ

セッションの終盤、モデレーターの山下氏から「新・文化インフラが実装された先には、どのような人々の笑顔があるのか」との問いかけがありました。大和田は「そのエリアの方々の笑顔。循環にはお金が必要であり、経済的な自立こそが持続的な笑顔を生む」と答え、井上社長は「地域に住む方々が誇りを持つこと。次世代の継承者が生まれる瞬間に立ち会えることが、何よりの喜びである」と締めくくりました。

「新・文化インフラ」の提唱している井上社長は、終了後のインタビューで今後の展望について次のように語りました。「ゴールは、地域に、社会実装すること。いくら立派な設計をしても『やってくれる人』がいなければ絵に描いた餅になります。だからこそ、このセミナーに集まった皆様のような『つなぐ人たち』を集めてコミュニティを作り、熱狂を生み出していくことが重要です。その点で、今日JCSの大和田さんが紹介された仙台の事例は、まさにその考えを実践なさっている姿だと感じました」

井上社長が求める「つなぐ人」としての役割は、JCSがこれまで国際会議運営を通じて培ってきた「つなぐ力」の真価が問われる領域でもあります。JCSは、この専門性を「新・文化インフラ」の構築へと還元し、地域の文化資産を起点とした持続可能な経済循環を目指して、皆様と共に新たな価値を創造してまいります。

プロフィール

  • 井上 義則氏
    株式会社八芳園
    代表取締役社長

  • 山下 裕乃氏
    やましたLLC
    CEO

  • 大和田 雅人
    日本コンベンションサービス株式会社
    執行役員


 

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