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2023.09.22

世界水泳選手権2023福岡大会を成功させた福岡市が目指すこれからのビジネスイベント


福岡市は今夏、世界水泳選手権2023福岡大会を開催。世界マスターズ水泳選手権九州大会と併せ、世界各国からの来場者数は約50万人、福岡市内の経済波及効果は推定約540億円と言われる国際的イベントを成功させました。これまでにもラグビーワールドカップ2019™日本大会、G20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議など、数々の大型ビジネスイベントを開催している福岡市。このたび福岡市経済観光文化局の冨田氏と、大名カンファレンスを運営する日本コンベンションサービス株式会社(JCS)大和田による対談を行い、冨田氏には、福岡市がMICE(マイス)と言われるビジネスイベントの誘致に力を入れている理由と、目指すところを伺いました。

福岡市におけるMICEの重要性・意義

MICEという言葉は聞きなれない方もいらっしゃると思います。はじめにMICEについてご説明いただけますか?

福岡市 冨田氏(以下、冨田氏):MICEは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称です。福岡市で開催された世界水泳選手権2023福岡大会を始め、これまで開催したラグビーワールドカップ2019™日本大会、G20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議などもMICEの一つです。

福岡市は国際的なMICEイベントを次々誘致しています。なぜMICEに力を入れるのでしょうか?

冨田氏:福岡市は一級河川が一つもなく、第3次産業が9割という特殊な産業構造をしています。地理的に製造業の集積が望めない福岡市は、国宝の金印「漢委奴国王」が作られた古代から、人々の交流によって発展してきました。
この特徴は現在も続いており、福岡市は交流人口を増やす数々の施策を行っています。その一つに観光・MICEの振興があります。観光で交流人口を増やせば良いのですが、首都圏の方々から見ると、福岡市はどちらかというとビジネスでの来訪地で、観光都市という認識はそれほど大きくないと思います。さらに海外、特に欧米豪に至っては、ある国際調査によると知名度は6%にとどまります。名前も知らない都市に観光で行くことはありませんので、国際的な知名度を高めなければなりません。ではどうやって?という時に手段の一つとしてMICEがあります。MICEなら都市の知名度は関係なく、そこで開催されるからその都市に行くものです。
そうして来ていただいた参加者に「食事が美味しい、気候も穏やかで観光も楽しいね」と感じてもらい、だんだん知名度が上がり、SNSで発信したり、家族や友人に「日本に行くなら福岡に行っておいでよ」と言ってもらえれば、更なる来訪に繋がります。
MICEはそういうきっかけを作る、重要な役割を果たします。

MICEには展示会や会議、イベントなど様々ありますが、その中で力を入れているジャンルはありますか?

冨田氏:どれも重要なのですが、先程の知名度アップにダイレクトにつながるのが国際会議(Convention)です。各国の要人が来るため、会場はもちろん、提供するサービスも一流でなければなりません。国際会議を開催できること自体、都市の力をアピールすることになります。
国内会議ではほとんどの参加者が福岡のことをすでにご存じと思いますが、海外の方は福岡という都市自体をご存じない。国際会議で福岡に来て、街の良さを感じていただくことで、福岡の知名度アップにつながります。
国内会議でも各界の第一人者が全国から集まります。そういう方に福岡を体感していただくことも重要です。会議の規模は様々なので、市内のカンファレンス施設の選択肢は多ければ多いほどいいと思っています。例えば大規模な学会のような催事は「福岡国際会議場」、リゾートの雰囲気を味わえるような場所で会議を開きたいなら「ヒルトン福岡シーホーク」、中心部で利便性の高い場所が良いなら「大名カンファレンス」など、開催場所の選択肢が豊富にあることは、MICEを誘致する際の非常に強力な戦力になります。

JCSは今年4月に直営の大名カンファレンスをオープンしました。この地を選んだ理由をお聞かせください。

JCS大和田(以下、大和田):福岡市はMICE誘致はもちろん、企業誘致やスタートアップへの支援など、外から呼び込む施策、地元企業を育てる施策に積極的に取り組まれています。弊社は半世紀以上に渡り、コンベンションの運営やMICE施設の運営を行っています。その知見を活かし、福岡大名ガーデンシティという、天神の新たな街の価値を作り出す仕組みに加わりたいと思いました。福岡初の5つ星ホテル、「ザ・リッツ・カールトン福岡」や緑豊かな3,000㎡の芝生広場を持つ「福岡大名ガーデンシティ」と、福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(以下FGN)*」が隣接するこの立地には、これまでにない可能性を感じます。

*Fukuoka Growth Next:豊かな未来を創造するアイデアを持ったスタートアップ企業を支援する福岡市の官民共働型施設。

大名カンファレンスを作るにあたり、特に意識した点、取り入れた特徴などはありますか?

大和田:第一に意識したのは、国際会議や外資系企業ミーティングにもご利用いただけるグローバルレベルの高級感です。「ザ・リッツ・カールトン福岡」の宴会場と繋がる設計なので、会議と懇親会など、両施設を連携した利用でも違和感がないような空間を作り出しました。また、2フロア吹き抜けで解放感あるエントランスロビーや芝生広場を見渡せるラウンジなど、会議のオフタイムも充実した時間をお過ごしいただけるスペースのある設計としました。実際、理事会・役員会や入社式など、重厚な場でもご利用いただいています。次に大切にしたのは地元との連携です。大名カンファレンスのロゴはFGNに入居するスタートアップ企業に制作を依頼しました。エントランスロビーの和紙アートや、一枚板のテーブルなど、地元の素材を組み込み、アジアの玄関口福岡にふさわしいオリエンタルな空間を演出しています。

国際都市としてのプレゼンス向上に向けた取り組み

福岡市では国際的な認知度を上げることを目指していらっしゃるとのことですが、具体的な取り組みを教えていただけますか?

冨田氏:MICEの誘致や開催支援の取り組みとしては、(公財)福岡観光コンベンションビューローに設置しているMeeting Place Fukuokaを中心に行っており、MICEに関するワンストップサービスの提供により、福岡市でスムーズに国際会議を開催できるよう取り組んでいます。加えて、福岡市におけるMICE開催を持続可能にするため、MICE業界の人材育成事業として、学生を対象とした「福岡グローバルMICEスクール」を開講しています。まずはMICEの魅力を知ってもらい、就職先の選択肢の一つとして考えてもらうことが目的です。
2019年開講当初は参加者150名のうち、MICEを知っていた学生は3名しかいませんでした。知らないのでは就職先の選択肢に入るわけがありません。福岡市としてどんどんMICEを増やしていこうとしている中、担い手がいないということになります。しかしラグビーワールドカップ2019™日本大会やG20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議などでMICEを知る機会が増え、プログラムにもMICEの知識を得る講座はもちろん、福岡市で開催されるMICEの運営現場を組み込むことで、応募者も増えてきました。今年は応募が200名を超え、MICEを知っている学生は半数くらいまで増えました。認知が上がってきたという手応えを感じています。

施設に対する取り組みはいかがでしょうか?

冨田氏:世界水泳選手権2023福岡大会でも使われた「マリンメッセ福岡B館」が2021年に開業しました。
また同年、民間運営施設として「博多国際展示場&カンファレンスセンター」がオープン。さらに今年はこの「大名カンファレンス」と「ザ・リッツ・カールトン福岡」がオープンするなど、近年民間においてもMICEを開催できる施設の整備が進み、要人受け入れ体制も手厚くなり、一段とMICEを開催しやすい都市になったと考えています。

大名カンファレンスは開業から4か月経過したところですが、どのような利用が多いですか?

大和田:大名カンファレンスの開業当日は福岡大名ガーデンシティのオフィスフロアと商業施設3店舗のオープンの日でもあり、会場を埋め尽くす来場者をお迎えし基調講演や内覧会を開催しました。こういった数百名規模の講演会・セミナーはもちろん、数十名規模の企業研修、採用イベント、お食事を伴う交流会など多岐に渡ります。魅力的な施設に囲まれたこの立地ならではの利用としては、スタートアップ企業と大企業のビジネスマッチングイベント・交流会や、カンファレンスでの会合後に「ザ・リッツ・カールトン福岡」へ移動してのお食事会、一風変わったところでは、広場で開催されたスポーツイベントの選手控室などもあります。テイストも大きさも異なる様々な部屋があるので、ニーズに応じた使い方を積極的にご提案しています。

大名カンファレンスに寄せる期待

ここ大名カンファレンスには、どのような期待をされていますか?

冨田氏:私からは2点に尽きます。「ザ・リッツ・カールトン福岡」と併せて、今まで福岡であまり開催されてこなかったハイクラスのMICEをぜひ開催いただきたい。
もう一つはスタートアップとの連携です。福岡市は革新的なビジネスを生み出すスタートアップ企業の創出や育成に取り組んでいます。大名カンファレンスにはFGNなどと連携し、スタートアップ企業が投資家や大企業と交流し、刺激を受け、成長できるような出会いの場としてのイベント開催を期待したい。
市の中心部にある、これまでにない交流や融合が生まれそうな、様々な可能性を感じられる大名カンファレンスにはこの立地ならではの特徴を生かし、活躍いただきたいと思っています。

福岡市の期待を受け、MICE施設として今後どう取り組んでいきますか?

大和田:大名カンファレンスの「軸」として、「高級感」「スタートアップ」は重要なキーワードとして捉えています。実際運営してみるとそれに加え、市民の憩いの場となっている「福岡大名ガーデンシティ・パーク」と連動することよって広がる多様な可能性を実感しているので、「ここに来ると何かある」と思っていただけるような催事やイベントも開催し、長く福岡のみなさまに愛される施設にしていきたいですね。

Profile

冨田 浩次氏
1998年福岡市役所入庁。
国際スポーツイベントの誘致や開催支援に従事したのち、2019年よりMICE推進課長となり現在に至る。

大和田 雅人
1999 年日本コンベンションサービス株式会社入社。
人材サービス部にて公共事業に従事し、市民会館、図書館の運営を通じて当社の公共サービス分野を開拓。現在、国際会議場・カンファレンス事業の事業部長と地域MICE戦略等の企画立案のコンサルティングを行う。

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