コラム

2026.09.30

国際会議・ビジネスイベントは地域に何を残せるのか―会議の「ハレ」と、まちの「日常」をつなぐJCSの取り組み


日本コンベンションサービス株式会社(JCS)は、国際会議や学会、企業イベントの企画・運営に加え、会議場などの施設運営やまちづくりも手がけています。会議・イベントの企画・運営を通じて培ってきた知見と、施設運営やまちづくりを通じて地域と継続的に関わってきた経験。JCSは、それぞれの領域で培ってきた強みを生かしながら、両者をつなぐ取り組みを進めています。
こうした取り組みは、主催者や参加者、開催地にどんな価値をもたらすのでしょうか。国際会議・MICEを担当する中村祥二と、まちづくり・地域課題を担当する大和田雅人が、具体的な事例を交えながら、それぞれの領域で培ってきた強みをつなぐことで生まれる価値や、今後の可能性について語り合いました。

プロフィール

  • 中村 祥二
    日本コンベンションサービス株式会社コンベンション事業本部長 兼 執行役員。入社以来、国際会議・MICEを一貫して担当。

  • 大和田 雅人
    日本コンベンションサービス株式会社 執行役員。コンベンション以外の新規事業を切り拓き、現在はまちづくり・地域課題を担当。


「開催すること」から「何を残すか」へ。変化するMICEの目的

―会議場を利用されるお客様の顔ぶれや、主催者のイベント開催に対する考え方に変化はありますか?

大和田
「当社が運営する会議場やカンファレンス施設では、年間約3,000件のイベントが開催されています。最近は演出に力を入れたり、開催日数を増やしたりするお客様が増えてきました。スタートアップ企業など、これまで利用の少なかったお客様も、カンファレンス等の外部会場を借りてくださるようになっています。
自分たちのイベントに独自の価値を持たせたい。主催者のそうした意識が強くなっていると感じます。私たちもそれに合わせて提供するものを変えていかなければいけません。」

中村
「運営する側も同じですね。これまでは、私たちも会議やイベントを確実に実施することに重きを置いていました。今はさらに、開催を主催者の目的を達成するための『手段』と捉えています。例えば、海外から参加者が集まる国際会議なら、日本の魅力を伝える機会にもしたい。企業イベントなら、顧客に商品やサービスへの理解を深めてもらい、営業活動につなげたい。私たちも主催者のそうしたご要望や目的に踏み込み、その実現を支えることまで考えるようになっています。
また、イベントが終わった後、開催地に何を残すかという『レガシー』(※)を考える視点も重要です。主催者や参加者だけでなく、地元の企業や市民にも、開催されてよかったと思っていただきたい。主催者・参加者・開催地の『三方よし』を目指し、それぞれに価値を届ける企画をどうつくるかが、今の私たちに求められているのだと思います。」

※MICE・国際会議業界で使われる「レガシー」は、英語の"legacy"(遺産・遺物)に由来する言葉で、イベントや会議が終わった後にも地域や社会に残る、長期的な効果・価値のことを指します。


会議の「ハレ」とまちの「日常」をつなぐPark MICE

―主催者と参加者、そして開催地(デスティネーション)を含めた「三方よし」の価値を生み出すために、具体的にどんな取り組みをしていますか。

大和田
「人口が減っていく中で、自治体は仕事や観光などで訪れる『交流人口』をどう増やすかを考えています。企業誘致でも、地域の特色を生かして、どのような産業を育て、呼び込むかという視点が強くなっている。そこで、人が集まる機会をつくる私たちの仕事と接点が生まれるんです。
施設を運営する私たちは、365日その地域と関わっています。地元の企業と顔を合わせ、地域の取り組みに一緒に参加する。その日常の関係に、国際会議や学会に集まる人たちをつなげられないか。会議という『ハレ』の場と、まちの『日常』を結び付ける取り組みをしています。」

中村
「会議は数日で終わりますが、その後にいかに長くポジティブなインパクトを残せるか。これを考えています。私たちは会議を誘致・運営する立場から、参加者が地元の文化を体験したり、地域の企業や住民と交流したりする機会を、会議に合わせてつくる。地域を訪れる人や、地域と関わる人を増やすことにつながれば、まちづくり側の成果にもなるでしょう。私はイベント側から、大和田さんは開催地の側から。アプローチが違うだけで、目指すところは一緒ですね。」

―その実践の一つが「Park MICE」(※)ですね。実際にどのような成果や手応えがありましたか。

大和田
「2024年の第32回日本乳癌学会学術総会(仙台)や、2025年の第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(神戸)で実施しました。会場に隣接する公園や広場を使い、地域の文化を体験できるプログラムを用意し、学会参加者と市民の交流の場をつくる取り組みです。
特に仙台のPark MICEは、いまだに話題にしていただいていますね。他の自治体からも関心をお寄せいただいており、営業の場でも『Park MICEができます』と提案しています。」

中村
「これまでは、地元で大きな国際会議が開かれていても、地域の住民が関わる機会は限られていました。しかしPark MICEなら、市民が関われる機会を会議に組み込める。そこに意義を感じています。またJCSとしては、会議を運営する私たちの部門の仕事と、地域で施設を運営する大和田さんの部門の仕事が、ここでつながるんです。」

※「Park MICE」は日本コンベンションサービス株式会社の登録商標です。2024年1⽉取得済み。


人が集まる機会を、地域に残る価値につなげる

―自治体やイベント主催者に対して、どのようにアプローチされていますか。

大和田
「施設運営などを通じた日常的な関係が入り口になります。施設で開催される催事を通じて、主催者や地元企業等との関係値を積んでいます。それは担当者が異動しようとも、的確な施設運営を続けているからこそ、『国際会議をやりたい。JCSさんにお願いできますか』といったご相談が入ってくるわけです。新しく人脈を開拓するというよりは、すでにある関係性が新しい仕事につながっていく。2027年開催予定の国際大会でも、すでに中村さんと連携し、サポートしてもらっています。」

中村
「これまでは、国際会議の開催件数を増やし、都市のランキングを上げることが自治体の大きな関心ごとでしたが、最近は開催をきっかけに、地域や社会に良い影響を残そうというソーシャルグッドな取り組みを行いたいという声が増えています。それを実現するための仕掛けを私たちがつくっていく。そこで重要になるのが、会議の内容が仕様書として固まる前の段階から、企画に加わっていくことなんです。
国際会議の誘致や開催は、自治体では観光部門が担当することが多いのですが、例えば防災をテーマにした会議なら、その自治体の防災部門にも関わっていただく。その地域の施策をどう伝えるかを、行政の縦割りを超えて一緒に考えようというわけです。会議の開催は、同時に地域の防災への取り組みを発信する機会にもできますから。JCSを介していただくことで、異なる部署が一緒に取り組めるような枠組みを構想の段階からつくれるのです。」


確かな運営力を土台に、新しい挑戦へ

―地域を巻き込む新しい企画を実現するうえで、これまで培ってきた会議運営の力をどのように生かしていますか。また、こうした取り組みを通じて、現場にはどのような変化が生まれていますか。

中村
「まず土台となるのは、国際会議やイベントを安全かつ円滑に運営し、求められる品質を確実に提供する力です。これを『規定演技』とするなら、そこに地域との連携や新しい企画という『自由演技』を加えていく。それぞれの専門性を持ち寄ることで、会議・イベントが生み出す価値をさらに広げていきたいと考えています。
『せっかく主催するなら、何か特別なことをやりたい』と、一緒に考えてくださる主催者も多いので、その思いに対して何を提供できるかを考えるのが、一番楽しいところですね。」


大和田
「Park MICEでは、当初は新しい手配先が増えることへの戸惑いが現場にありました。でも、実際に取り組んで、参加者が集まったり、先生方に喜んでいただけたりすると、関係者にも変化が生まれるんです。当社の社員も『地域のために』という意義を感じて、どんどん主体的になっていく。これはうれしいですね。
しかし一方で、地域の課題解決に向けた取り組みを、継続的に収益を生む事業にするのは難しい。施設という拠点と、そこで人が交流するイベントを組み合わせて、どのように事業として成り立たせるか。そこは今も模索しています。こうした新しい価値の生み出し方を考える上で、JCSが重視しているのが、海外の先進的な知見やトレンドを取り入れることです。」

グローバルネットワークが広げる可能性

―JCSは、2008年に世界60か所以上にオフィスを持つMCI Groupと共同でMCI-JCS Japan株式会社(MCI Japan)を設立しました。 MCI Groupを通じて得られるグローバルな知見と、JCSが各地域で培ってきた経験やネットワーク。この二つをつなぐことで、今後どのような価値を生み出していけるとお考えですか。

中村
「MCI Groupが持つグローバルな知見を国内のイベントマーケティングに活かしています。MCI Japanを通じて、海外のノウハウや情報を得られることは私たちの大きな強み。例えば、イベントをマーケティングに生かし、参加者と企業の関係をどう深めるか。海外で生まれた新しい手法をいち早く輸入し、日本に合う形にして地域にも届けたいと思っています。
運営ができる、施設を貸し出せる。そのほかに何を提供できるのか。そこを追求していくのが、これからの私たちの仕事です。」



国際会議・イベントの企画・運営で培ってきた知見と、施設運営を通じて地域と築いてきた関係。この二つの強みを掛け合わせた取り組みの一つがPark MICEです。仙台や神戸では、会議という「ハレ」と、まちの「日常」が交わる場を生み出してきました。今後は、仙台や神戸で得た経験を生かし、Business Eventsを地域・産業・市民とつなぐことで、新たな価値を生み出していくことを目指しています。
会議が終わり、参加者が帰った後、そのまちに何が残るのか。新たな出会いや地域への愛着が、次の交流につながっていく。そんな未来を見据え、中村と大和田は、会議をつくる側と地域を支える側から、開催の先に残る価値をともに追求しています。


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