コラム

2024.04.18

【MICE都市研究所 レガシーレポート No.3】野毛フード&BARホッピングツアー


MICE都市研究所では、MICEに関わる産・学・官・地域をMICEコミュニティとして、MICEに関わる人材や組織の強化を目指した研修や調査を行っています。また、人々との出会いから生まれるビジネスの新たな機会やイノベーションの創出など、MICEが開催地にもたらす好影響(レガシー)に注目し、これに関する調査も行っています。

本稿ではMICEレガシーの創出事例として、横浜の庶民の台所として老若男女に親しまれている「野毛」で行われるフード&BARホッピングツアーを取り上げます。フード&BARホッピングツアーは、約600店舗のユニークな居酒屋が軒を連ねる野毛横丁で、日本ならではの食事とお酒を堪能することができるローカルガイド付きツアーです。
このツアーは、観光庁「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」に選定された事業(横浜の多様な食文化を活かしたスペシャルフードツアーを契機とした外国人来訪者向けプログラムの為のプラットフォーム造成事業)の一環で開発され、「第36回日本内視鏡外科学会総会」のエクスカーションプログラムとして採用されました。MICE都市研究所では、本ツアーのレガシー効果を最大化することを狙いとして、ローカルガイドスタッフを対象とした事前研修を担当しました。

会議参加者に向けた体験プログラム

多くの場合、会議参加者は研究発表やディスカッション、情報収集のため、会期中は1日の大半をMICE施設で過ごします。一方で、会期前後や一日のプログラムの開始前(早朝)や終了後(夕方以降)には、MICE施設外で会議参加者同士の交流を深めるため、懇親会を開いたり、個人として観光地を訪れたりと、思い思いの時間を過ごします。このような会議本体以外の時間に行う様々な体験では、開催地への経済効果だけでなく、一般旅行客と同様に会議参加者が満足度の高い体験をSNSで共有するなど、情報発信効果を期待することができます。
海外からの一般旅行客の間では、著名な観光スポットに加えてその土地ならではの体験や地域の人との交流が注目を集めています。この傾向は、会議参加者においても同様で、特に開催地のローカルな体験、歴史背景やストーリーのある文化体験など、「ここに来ないとできない体験」が興味関心を引き付けています。

野毛フード&BARホッピングツアーとは

本稿で紹介するフード&BARホッピングツアーの特徴は、主に横浜市内在住のローカルガイドスタッフが3‐5人の参加者に対して1名つき、通訳だけでなく顧客の希望に応じて日本や各地域、食文化などの解説をしながら居酒屋やBarなど3店舗に同行する点です。
街の資源を活かした付加価値の高いプログラムの開発を目指して、本ツアーの企画や販売、ガイドスタッフの募集や管理は、横浜市内のDMC(Destination Management Company)(YDMS株式会社)が行いました。登録されたガイドスタッフの方々は、これまでに通訳ガイドとして活躍された経験を有する方でしたが、会議参加者に限定したツアーの販売にあたり、改めて事前研修を実施しました。

ローカルガイド向け事前研修

事前研修は、顧客に応じたガイド力の向上をねらいとして実施。MICEの中でも中・大型規模や医学系会議の誘致/開催の流れや参加者について、MICE開催地のトレンドを解説しました。参加したガイドスタッフからは、「会議参加者の動きが分かった」、「野毛限定というよりも日本について解説を求められることも多いので準備したい」、「お客さんとガイドスタッフの距離が近い点が野毛らしい」といった声が上がり、ガイドスタッフ同士の経験や課題共有の場となっていました。
また研修後半では、野毛飲食業協同組合が「野毛の歴史や現在」と題して、街の移り変わりや近況を解説しました。野毛の変遷を間近に見てきたガイドスタッフもいらっしゃり、講師が広げた昔の野毛の写真を見ながら昔話で盛り上がる光景もありました。

このツアーの価値を高めているのは、受入側(店舗)と訪問側(会議参加者)の間に言語サービスの提供だけでなく、開催地域のDMCやローカルガイドの存在です。DMCやガイドが、地域や訪問者をよく理解したうえで、街の資源を活用してさらなる付加価値を生み出そうという視点でコンテンツを開発しているからこそ、双方の満足度を高めることができていると考えます。また、ローカルガイドはともすれば個人の力量に左右されがちな業務ではありますが、ローカルガイドの役割を認識したり、スタッフ同士が課題を共有したりする場があることによって、質の高いガイドツアーを提供することができるといえます。

地域資源の磨き上げ

本稿では、地域の力による地域資源の磨き上げについて紹介しました。地域資源の活用によって、他地域との差別化や会議参加者の参加意欲の向上、ひいては観光客としての再来訪も期待できます。
そのためには、地域事業者や地域住民がMICE開催をビジネスイベント単体による効果をとらえるのではなく、ビジネスイベントに地域資源を活用することで生み出される効果を深く理解し、地域資源を地域の力で継続的に磨き上げていくことが重要です。
地域資源を活用して「ここに来ないとできない体験」を生み出すこと、そして顧客のニーズに合わせたカスタマイズによって、会議開催都市、参加者、主催者の満足度を高めることができるといえます。

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