コラム

2024.04.03

【MICE都市研究所 IAPCOアンバサダーレポートNo.3】MICEと「食」


会議を運営する上で、「食」は会議に彩りを添える重要なポイントとなります。
筆者は国際会議の準備にあたる際、主催者の意向を確認しつつ、「食」に関しては可能な限り開催地の特徴を反映できるよう意識し、ガラディナー*1、レセプション、企業からのスポンサーシップで提供されるお弁当、コーヒーブレイク時のスイーツ等を提案しています。この提案は、会場となる施設やホテル、地域の事業者と食についてあれこれ考えながら進める、楽しみな業務の一つです。海外でも“Food and Beverage are King” と言うことがあります。MICEで知らない土地を訪れた方々が、「今度は家族と」、または「友人と来てみようか」という再訪のモチベーションの一つになるのが「食」です。「食」は地域の事業者にとっても開催地の魅力をアピールできる大きなチャンスです。
MICE運営において重要な要素である「食」。
他方、そこにはサステナビリティの観点から、改善すべき点がたくさん含まれており、世界中で様々な取り組みがなされています。

*1ガラディナー:通常夕方に行われるディナーパーティ。フォーマルなドレスコードが求められる。食事中エンターテイメントやスピーチなどもあり(IAPCOオンライン辞書より)

廃棄される「食」

海外の国際会議に参加した際、レセプション会場に到着すると、ビュッフェコーナーの料理がすでになくなっていたことが何度かありました。
一方日本はコロナ禍を経て、「食」に対する取り組みが変わりつつあります。コロナ禍以前は発注食数を参加予定者数の7割から8割とすることが多く、結果として料理が残り、廃棄することもありました。主催者の「料理がなくなるより余るほうが良い」というおもてなしの思考もあるからと考えられます。また日本では、スポンサー企業によるランチョンセミナーが開催されることが多く、そこで提供されるお弁当の廃棄が多いことも従来から課題として捉えられていました。これらが長く続いてきた背景には、会議開催中の数日間という限られた時間であることから、主催者が積極的にそのサプライチェーンについて考えるには至らなかったためと考えられます。

フードロス削減への取り組み

上記のような課題を解決するためには、主催者と問題意識を共有することはもちろん、我々PCOや施設、または会場がフードロス削減を意識することが重要です。
例えば2023年に開催されたIAPCO総会では、香港の事例が紹介されました。世界的に有名な香港コンべンション&エキシビションセンターは、宴会で残された食事を衛生面に配慮しながら再調理し、お弁当に仕上げ、地元のボランティアチームと協力して、お年寄りが暮らす施設に届けています。
日本では、スポンサー企業がサステナビリティの観点から、ランチョンセミナーで発注するお弁当の数を正確に把握する、などの変化が見られるようになりました。セミナーに事前登録制を導入し、参加者数を把握し、それに合わせお弁当の発注数を決めます。残念ながらそれでも余ってしまうこともありますが、MICEでのフードロス削減への意識は着実に高まってきています。
当社は昨年、この課題の解決を目指し、NPOと連携して、イベントで余ったお弁当をこども食堂へ運搬、子どもたちに提供する実証実験を行いました。この実証実験は当社の若手社員が発案したプロジェクトの一環で、本プロジェクトは次のフェーズに向け活動を進めています。

「食」の多様性

昨年9月、札幌市で開催されたアドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット2023北海道・日本(以下、「ATWS2023」)における「食」の手配で、MICEにおける食の重要性を示す話を伺いました。
ATWS2023とは、世界のツアーオペレーター・メディアを中心とした約800名の事業者が参加する、アドベンチャートラベル業界最大の会議であり、商談会です。ATWSはアドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)から示される綿密な契約書をもとに、企画・運営されます。契約書には「地域の食材を取り入れる」といった開催地に対するリスペクトや、SDGsに配慮した運営を重んじるよう記載されています。前述の通り、来訪した参加者に地元の「食」をアピールすることは、開催地の魅力を知ってもらう入り口になります。その一方、契約書の中には「食事は15%のベジタリアンミールを割り当てるか、ビュッフェにベジタリアン/ビーガン/グルテン/乳製品不使用のオプションを用意する」といった内容も含まれており、数は少ないかもしれませんが、参加者それぞれの「食」のスタイルへの配慮も求められます。求められるスタイルと地産地消をどう組み合わせるのか、非常に難しくはありますが、チャレンジする価値があるのが、「食」の魅力です。

地域の食材を取り入れた食事
地域の食材を取り入れた食事
ビーガンに配慮して作られたジェラート

IAPCO*2アンバサダー 池田ゆかり(MICE都市研究所シニアコンサルタント)
*2IAPCO:国際PCO協会(International Association of Professional Congress Organizers)。世界の会議運営専門会社(PCO)約140社で構成される国際団体。本社はスイス・チューリッヒ。

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