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2026.07.30

【開催レポート】第三回 フリーランス通訳者座談会 ~選ばれ続ける通訳者に共通する"人間力"とは~


2026年1月24日(土)、当社は登録フリーランス通訳者を対象とした「フリーランス通訳者座談会」を開催いたしました。JCSは、登録通訳者の方々のキャリアアップを目的と自社主催セミナーや、長期にわたり安心してご活躍いただける継続的支援を随時実施しています。その一環として、通訳者同士での経験や知識の共有を促進するテーマ別座談会を随時開催しています。

第三回目となる今回は「選ばれ続ける通訳者に共通する"人間力"とは」というテーマで実施しました。通訳の現場では、通訳スキルや分野の専門知識、パフォーマンスを発揮するための事前準備に加えて、その場の空気を読む力、関係者それぞれの立場や状況に合わせた対応力なども、次のお仕事につながる重要な要素の一つとなります。一方で、こうした"人間力"は、重要でありながらも具体的に語られる機会は多くありません。
そこで、数々のクライアントから指名を受け、第一線で活躍されている会議通訳者の安保尚子氏、結城あけも氏をゲストスピーカーとして迎え、技術や知識だけでは語りきれない部分について、参加者と一緒に考える時間にすることを目的として進行しました。

今回のゲストスピーカー

会議通訳者 安保尚子氏
大学卒業後4年間一般企業に勤め、その後1989年よりフリーランス通訳。
上智大学外国語学部の非常勤講師を15年間勤め現在に至る。

会議通訳者 結城あけも氏
大学在学中から通訳学校に通い、社内通訳を3社で通算7年間経験した後にフリーランス通訳に転向。
通訳者は「職人」であると常日頃感じている。

当日のプログラム

第一部(45分) 座談会
・現場で問われる「人間力」とは?
・信頼される通訳者の共通点
・「人間力」を育てる習慣と姿勢、マイルール
・ゲストスピーカーへの質問・共有してみたい悩み
第二部(45分) 懇親会

第一部:座談会

AI時代における通訳者の価値 ―― 「人間力」という視点から

前半では、「人間力」という言葉の意味の捉え方や、その難しさをテーマとして取り上げました。AI翻訳技術の進化や、外国語でコミュニケーションが取れる人材が増えるなかで、なぜあえて通訳が必要とされるのか。その背景には、単に言葉を置き換えるだけではない、通訳者の役割があるといえるでしょう。そこで、ゲストスピーカーのお二人が考える通訳者の「人間力」について、それぞれお話を伺いました。

安保氏は、通訳を「コミュニケーションの達人としての力が問われる仕事」だといいます。二者の間に立ち、会議やイベント、交渉の「意図」や「ゴール」を汲み取ったうえで言葉を届ける、それが通訳者の仕事だということです。
実際に、会議や交渉の通訳に入る際、「どのような結論を導きたいのか」をあらかじめ確認するようにしているといいます。たとえば、謝罪によって関係修復を図りたいのか、それとも譲れない条件を明確にしながら合意点を探りたいのか。目的によって選ぶ言葉は大きく変わります。AIは言語を変換することはできますが、こうした意図や行間を読み取ることはできません。安保氏は「この行間を読む力こそが、通訳者の人間力だと思う」と語りました。

結城氏もまた、通訳の人間力として「場の空気を読む力」の重要性を挙げます。例として、取材通訳の現場での経験が紹介されました。
中には、気難しいと評される取材対象者の通訳を担当することもあり、そうした場面では、相手の態度や表情から意図を察し、通訳の介入の仕方や言葉の長さ、テンポを調整することを意識しているそうです。たとえば、日本の記者は質問の前に長い前置きをすることがありますが、取材対象者の様子から「早く質問を聞きたい」という空気が伝わってくる場合もあります。そんなときには、日本語の質問をそのまま長く訳すのではなく、要点を整理してあえて簡潔に通訳することもあるそうです。そうすることで会話にテンポが生まれ、結果としてインタビューが円滑に進んだ経験もあったといいます。

言葉そのものを訳すことはAIにもできる一方で、場の空気を読み、どのような言葉選びや伝え方がその場にとって最適かを判断することは、人間の通訳者にしかできない。こうした判断の積み重ねこそが、通訳者に求められる「人間力」なのではないか。そのような話に、参加者の多くが頷きながら耳を傾けている様子が印象的でした。

信頼される通訳者の共通点 ―― 現場で問われる姿勢と判断

後半は、「信頼される通訳者にはどのような共通点があるのか」というテーマを取り上げました。通訳の仕事は、クライアントやパートナー通訳者、通訳エージェントなど、多くの関係者と連携しながら進められます。そうした中で、どのような姿勢や判断が信頼につながっていくのか。ゲストスピーカーのお二人に、具体的な現場エピソードを交えながらお話を伺いました。

■クライアントとの信頼を築くコミュニケーション

クライアントとの関係においては、「配慮」と「プロとしての冷静さ」の重要性が語られました。
安保氏からは、「資料が十分に揃わない現場」を例として、通訳者の振る舞いについて、現場でよくある状況を踏まえた話が共有されました。通訳をするうえで、事前資料や話者の読み原稿があった方がアウトプットの質が上がることは言うまでもありません。一方で、クライアント側も多忙な中で会議やイベントを準備しており、余裕があるとは限りません。そうした状況で、資料がないことへの不満や焦りを態度に出してしまうと、それは相手にも伝わってしまうといいます。大切なのは、クライアントの立場を理解したうえで、プロとして良い仕事をするために資料が必要な理由を、冷静かつ丁寧に伝えること。たとえば、「お忙しいところ恐れ入りますが」といった一言を添えるだけでも、相手の受け取り方は大きく変わります。また、現場の状況を見極め、タイミングを考えて依頼することも重要だといいます。
このような配慮と冷静な判断の積み重ねが、結果的に信頼関係につながるケースも多いと話しました。また、資料が入手できなかった場合でも、与えられた環境の中でベストを尽くす姿勢は、後からきちんと評価されることがある、という実感のこもったエピソードが共有されました。

■パートナー通訳者とのチームワークと通訳エージェントとの信頼関係

同時通訳の現場では、パートナー通訳者との関係も重要です。パートナーは「バディー」であり、最終的な目的はクライアントに満足してもらうこと。通訳者同士の関係性は、マイクの受け渡しや声のトーンなどを通して、意外と外からも見えるものだそうです。だからこそ、お互いへの敬意を忘れないことが大切だといいます。結城氏は、パートナー通訳者と仕事の進め方が異なる場合でも、基本的なルールを踏まえたうえで、相手のやり方や姿勢を尊重するようにしているといいます。通訳の流れが良ければ無理に時間で交代をせず区切りの良いところまで任せることもあり、必要なときはボディランゲージで合図を送る程度にとどめ、相手のペースに干渉しないよう気にかけているそうです。

また、エージェントとの関係において、結城氏は「フェアであること」を大切にしていると話します。
フリーランスの通訳者は複数のエージェントに登録していることが多く、同じ日程に複数の問い合わせが入ることもあるでしょう。そうした中で、結城氏は自身のマイルールとして、最初に引き受けた案件を優先すると決めているといいます。まだ正式な確定に至っていない案件であれば担当者に進捗状況を確認することはあるものの、たとえ後からより興味のある案件の依頼が来たとしても、自身の都合で後から判断を変えることはエージェント側の調整にも影響を及ぼしかねないため、最初に対応可能と返事をした案件を優先する姿勢を大切にしているそうです。
このように、自身の軸となる基準を持ち、それに基づいた姿勢で対応することは、信頼関係の構築につながる要素の一つといえます。

現場では、通訳者だけでなく、クライアントや運営など、関わる人々がそれぞれに役割を担いながら会議やイベントが成り立っています。そうした中で、信頼される通訳者に共通しているのは、相手の立場や現場の状況を踏まえ、自身の役割を冷静に判断する姿勢だといえるでしょう。通訳者としてのスキルや知識に加え、こうした現場での立ち居振る舞いや判断の積み重ねが信頼につながっていくことを、改めて考える時間となりました。

第二部:懇親会

ゲストスピーカーを囲み、座談会よりもカジュアルな雰囲気の中で進行しました。参加者からは現場での悩みや、日頃感じている疑問など、率直な質問が次々と寄せられました。通訳者同士、実体験を交えたやり取りが自然と広がり、予定していた時間があっという間に感じられるほど、活発な交流の場となりました。

当日の様子

参加者の感想

  • 「通訳者としてのあるべき心構え」について多くの事を学ばせて頂き、非常に有意義な会でした。

    先輩方が後輩への愛に溢れた応対をしてくださって嬉しかったです。お聞きしたことは、この仕事を続けていく心の支えになりそうです。

    「信頼される通訳者」とは、人生経験に根ざした人間的な土台と、その上に築かれる通訳スキルや対人対応力の両輪によって成り立つ存在だと実感した。前者は短期間で真似できるものではないが、後者は意識して磨くことができる。まずはテクニカルな部分を地道に高めつつ、人間としての土台も時間をかけて育てていきたいという、自身の進むべき道筋が明確になった。

    自分が実践していることが多かったので少し安心できた。

    懇親会では参考になるお話も聞けましたし、他の通訳者とお話もできたので良かったです。

終わりに

JCSでは今後も今回のような小規模な座談会や、登録フリーランス通訳者の方々に役立つセミナー、研修を企画・実施してまいります。

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