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2018.05.21

TIリテラシーのコラム第6弾「Lost in the World Without World Englishes」


当社の東川静香(ひがしかわ・しずか)がお送りする連載「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」の第6弾です。国際会議の運営をはじめ、国際的なビジネスで活躍するには、単に言葉が話せる・読めるというスキルだけでは不十分です。そこで、国を超えたビジネスや翻訳・通訳に関わる人々に不可欠な能力を、TI(翻訳通訳)リテラシーという観点から解説します。

Introduction

本名信行氏著の『世界の英語を歩く』では、様々な国や地域における英語の特徴が、わかりやすく説明されています。中でも面白いなと思ったのが、アフリカにおける“Wonderful!”の使い方です。アフリカでは、驚いた時に“Wonderful!”という習慣があるため「あの人、亡くなったそうよ」という話をしている時に、“Wonderful!”と言うそうです。そんな習慣を知らずに会話を聞いていると、「なんで?」と思ってしまいます。しかし、これは単なる一例に過ぎず、世界では多様なEnglishesが存在します。それが、“World Englishes”です。

What’s World Englishes?

多様なEnglishesが存在する理由としては、「それぞれの国や地域で英語を話す背景が異なる」事が挙げられます。それらは、内円圏、外円圏、拡大円圏に分けられます。

内円圏(Inner Circle)は英語が母語の国・地域で、イギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダ・ニュージーランドが該当します。「じゃあ、イギリス英語とアメリカ英語はどっちが正しいの?」とよく聞かれます。結論から述べると、どれか1つが正解という訳ではありません。内円圏の中でさえ、それぞれの国・地域によって、話される英語が異なるのです。
例えば、center(アメリカ英語)とcentre(イギリス英語)はスペルが違いますが、両方正解です。(※固有名詞であれば、決まった言い方をしなければなりません。)また、オーストラリアではdayは「デイ」ではなく「ダイ」と発音します。そのため、dieと言っているのかな?と思う人もいるでしょう。Wayは「ウェイ」ではなく「ワイ」と発音します。こちらは、一瞬whyと言っているのかな?と思いがちです。これらの特徴を知らないと、コミュニケーションが難しくなります。

外円圏(Outer Circle)は英語が公用語である国・地域で、ガーナ、インド、ケニア、パキスタン、シンガポール等が該当します。これは、インド英語Hinglishやシンガポール英語Singlishと呼ばれるもので、たとえEnglishを話せる人でも理解できない事があります。発音だけではなく、文法も独特のものがあります。
例えば、マレーシア英語Manglishでは、「テレビをつける」は“open the TV”となります。「テレビを消す」は“close the TV”となります。我々日本人は“turn on the TV”,“ turn off the TV”と習うので、柔軟な思考を持っていないと、コミュニケーションが遮断される事もあり得ます。

拡大円圏(Expanding Circle)は、国際化の中で英語を使用する国・地域で、日本・中国・ドイツ・ロシア等多くの国や地域が該当します。日本人が英語を書く時に、日本語から英語にしようとするように、他の国や地域でも同じような事が起こるため、ここでも英語の多様化が見られます。
例えば、日本ではカタカナ英語が有名です。電子レンジをレンジと言っても、日本に住んでいて日本語ができる外国人でなければ通じません。なぜなら、英語では電子レンジはmicrowaveと言うからです。また、カタカナ英語には発音の問題もあり、McDonald’sをマクドナルドと言っても、海外では通じません。

What’s Important?

さて、このような世界の英語事情の中で、日本人はどうすれば良いのでしょうか。World Englishesを踏まえ、大事な点を下記に列挙してみました。

1.World Englishesを認識する
先ずは、世界では多くのEnglishesが存在するという事を認識する事が大事です。そして、自分が習った英語はその中の一部であるという自覚を持つ事も重要です。その認識がなければ、世界の人々とのコミュニケーションは不可能となります。世界の人々とコミュニケーションができなければ、その人達が何を求めているのかを予測する事も不可能となります。そうすると、国際会議を日本に誘致する際にも、マーケティングリサーチが十分に行えず、国際競争力も低下する事になります。

これは、同じ日本の中でも地域やターゲットによってニーズが異なり、そのニーズを満たさなければ、マーケティングに失敗するのと同じ原理ではないでしょうか。ターゲットが何を求めているのかを知るためにも、World Englishesを理解する事が重要となります。
別の例としては、翻訳や通訳という語学のプロの仕事において、アメリカ英語やイギリス英語は理解できるが、HinglishやManglishは理解できないとなると、プロとしての仕事はできなくなります。

2.World Englishesの背景を考え、尊重する
次に、World Englishesは単にことばの表面的な違いだけではないという事を知る必要があります。ことばの違いに至る歴史や文化の違いを知る事が、異文化・多文化理解につながります。異文化・多文化理解というのは、講義や書物から一朝一夕に習得できるものではありません。
大事な事は、コミュニケーションの中で、常に異文化・多文化を意識し、我々はこう考えるが、他の考え方もあり、それを尊重する事だと思います。

3.International Englishを話す
そして、最も重要な事は、我々が情報を英語で発信する際、International Englishを使用するという事だと考えます。International Englishというのは、誰にでも理解可能な英語の事です。
例えば、国際会議における多言語の同時通訳の場合、スピーカーの言語が日本語であれば、まず日本語から英語の同時通訳が行われます。その英語をもとに、フランス語やスペイン語等の同時通訳が展開されます。最初の英語部分でリレー通訳がつまずかないために、日本語から英語の同時通訳を行う会議通訳者が、なまりや間違いのない理解しやすい英語を使用する事が求められます。

Problems Without International English

英語を添削していると、次の2つのパターンに遭遇する事があります。

A: 文法違いやスペルミスが多く、日本語をそのまま英語にしているため、英語では何を言いたいのかがわからない。
B: 文法違いやスペルミスはなくても、長々と書き、難しい単語や言い回しを使おうとして、要点がわからない。

A・Bの場合ともに、メールを受け取った相手が壮大なコミュニケーション能力を発揮して、こちらの伝えたい事を汲み取ってくれる可能性もあります。しかし、それでは相手に多大な負担を強いる事になります。翻訳・通訳ビジネスにも携わる我々は、PCO(Professional Congress Organizer)として、日本語同様英語でもわかりやすい表現を心がけるべきでしょう。

また、Aの場合には別の問題も生じます。不自然な英語に加え、海外では使用しない全角文字を使用する人もいます。そうすると、文字化けが起こり、そのメールがスパムメールだと思われる可能性が高くなります。その場合は、相手にメールを開いてもらえず、コミュニケーションがそこで終了してしまう事にもなり得ます。

Bの場合にも別の問題があります。国際会議には、英語のネイティブだけではなく、外円圏や拡大円圏の人達も参加します。その人達に、わかりやすい英語で伝えるという事が、PCOとして求められる事だと思います。そのためには、要点がわかりやすいよう、簡潔に書く必要があります。簡潔に書くためには、1センテンスを短く、わかりやすい単語を使用する事が求められます。

What Do We Learn Through World Englishes?

著書『英語教育の危機』の中で、鳥飼久美子氏は下記の通り述べています。
「英語を教えることは、単語を教え会話表現を教えることだけではない。英語という外国語を通して、学習者を未知の世界に誘い、心を豊かにし、人間を育むのである。英語という教科が、(中略)『こころを育て、人を育てる』教育であって欲しいと切に願うものである」

ことばには、表面的な意味だけではなく、その背景には様々な思いが込められています。こう言うと相手はどう思うだろう、わかってくれるだろうか、わかりにくいだろうか、そのように自分の発することばを振り返り考える事、それが大事なのだと思います。それらを踏まえ、この業界における国際競争力を考えると、視野を世界に広げ、World Englishesを知る必要があると思います。なぜなら、単に英語が話せるだけでは、コミュニケーションが円滑に進まず、相手と“Win Win”の状態を築くところまで達しないからです。

また、同時にこの業界全体を世界的な視野で俯瞰する能力も必要だと思います。それは即ち、世界の中での日本、世界全体での業界の動向、その中での日本の役割、業界の役割、そして自分の役割を高次元から見る事です。この業界において、World Englishesを理解するという事、そしてTIリテラシーを持つという事は、その能力を含むのではないでしょうか。そして、その能力がなければ、国際会議を戦略的に日本に誘致するという事は、とても困難になると考えます。

Next

次回は、多様化する異文化・多文化世界の中で注目されるL10N(Localization)について考えてみたいと思います。

References

鳥飼久美子(2018)『 英語教育の危機』筑摩書房
東川静香(2017)『 国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学
本名信行(2003)『 世界の英語を歩く』集英社

東川 静香

日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員

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