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2019.04.24

立教大学の寄附講座を務めた講師3名が「MICEの理論と実践」をテーマに鼎談しました


立教大学で開講した寄附講座「MICEの理論と実践」のまとめとして、講師としてご登壇いただいた観光庁MICE推進担当参事官・井上学氏、株式会社横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)取締役営業推進部長・馬鳥誠氏、そして日本コンベンションサービス株式会社(JCS)社長の近浪弘武が、以下の3部構成で語りました。

MICEを支える人材育成

今後拡大が見込まれるMICEを含む観光業界。三者それぞれの立場から人材育成に対する取り組みをお聞かせください。

地域の観光を支える「多層的人材」をどう確保するか

井上 皆様ご承知の通り、観光という産業は、日本というエリアを商品として売るとともに、日本に来ていただきサービスを提供するという特徴から、製造業などと比べても多様な人材が必要になってきています。

たとえばまず、観光政策を考える人材が必要ですね。そして、世界からやってくる観光客を受け入れるために地域をマネジメントできる人材も必要です。観光客を受け入れる地域にはホテル、アミューズメント施設、レストランなどが揃っていなければなりませんし、交通網も整備しなくてはなりません。これからますます訪日外国人数が増加することから、それぞれの施設で働き、外国の方々とコミュニケーションを取る人材も必要になってきます。現在、訪日外国人の方々とコミュニケーションを取る人材は、特に観光客を受け入れる現場で非常に不足し、外国の方でその人員を補填しないと間に合わない状況です。これを解決するために、法律改正(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)も行っています。

つまりは政策決定から地域のマネジメントや現場まで「多層的人材」の確保が急務になっているわけです。加えて観光庁としては、観光地域づくりの舵取り役である日本版DMO(Destination Marketing/Management Organization:地域の舵取り役となる法人)の支援なども行なっています。

我が国の観光産業を牽引するトップレベルの経営人材の育成として「観光MBA」を設置・開学しました。また、地域の観光産業を担う中核人材の育成として、宿泊業等の経営力強化のため、社会人向け講座を実施しています。ホテル等の現場で活躍できる実務人材の育成として、大学教育の支援もしております。地域マネジメントができるコーディネーターの教育などは、モデルケースを作り、実際の実務をしながら学んでいただくといった支援を行っていきます。

次に、MICEに貢献する人材の育成とは何か、について考えてみます。まず私たちは学びたい人の場づくりをすることが大切だと思っています。たとえば観光やMICEについて学びたいという人がきちんと集い学ぶことのできる場所です。各MICE推進機関がそれぞれ行っている人材育成事業が受講者にとっても効果的なものとなるように、昨年には各機関にご参加いただいた人材育成協議会を開きました。

この学びの場を作るにあたって、まずは地域マネジメントができる、地域プロモーションができる人を育てることが大切です。観光庁では全国に12都市を「グローバルMICE都市」として選定していますが、そうした場所で、外国からのお客様が何を考えているのか、受け入れるためのスキルはどんなことが必要なのかといったことを伝えています。

そしてもう一つ大切なのは、大学での取り組みです。今回御社は、東洋大学や立教大学での寄附講座に取り組まれていますが、我々も全国の複数の大学などで社会人向け人材育成講座を支援し、観光産業の裾野を広げる試みを進めています。

全国の大学でMICE学部を創設してほしい

馬鳥 MICEという言葉は、その裾野がとても広く、「M」「I」「C」「E」それぞれの分野が違うので、全体を総合的に理解している人はまだまだ少ないのではないでしょうか。

現在、全国の自治体が熱心にMICEに取り組んでいらっしゃいますが、市民も産業界もMICE自体を正確に理解できているのだろうかと心配しております。大学でも観光MICEの学問が学べる場所はまだそんなに多くはありません。今回は御社の寄附講座で、立教大学で若い人に観光MICEの意義や効果について話をさせていただきましたが、とても良い機会でした。

立教大学での講義のときに「パシフィコ横浜に来たことがありますか」という質問をしましたところ、「コンサートで行った」「展示会で行った」「就職活動の説明会で行った」というような答えが返って来ました。それぞれの体験は、MICEのさまざまな分野のごく一部分です。それ以外の、たとえばコンベンションのときにはどうなっているのか、学生のときにはそういう経験がなかなかできません。また、「国際会議」とひとことでいうと、政府系の国際会議のことを思い浮かべる方が多いと思います。たとえば「G20サミット」などですが、このような会議は行政の支援もありますし、市民ボランティアも活躍しますから、理解はとても深く、積極的に誘致に取り組むことができます。

ところが、医学など、学協会系(学会や協会など学者・研究者の団体)の国際会議ということになると、まだまだ市民の理解は深まっていません。大きな医学の国際会議などが行なわれることがあれば、世界中から人が集まり、高度な研究成果の発表や議論が行われますので、このような国際会議に対する認識をこれからはより一層高める必要があります。

こうした総合的な理解を深めるためには、日本の大学すべてで、法学部、商学部、経済学部などの学部と並んで、観光MICEを学ぶ場も認知されるべきだと思っています。

先ほど、井上参事官から地域で支えるMICEについての話をいただきました。本当に、MICEを支えているのは地域全体の魅力だと思います。パシフィコ横浜も1年後には施設が増え、これから先色々なジャンルの催しが開催されますが、そういう案件が決まるのは、施設と宿泊だけの要因ではなく、開催地自体の魅力も必要なんですね。そのため弊社では、最近は観光MICEに関連する地域の企業の方々を集めて「ユニークベニュー」の開発にも取り組んでいます。横浜市内だけではなく、神奈川県全域でこの取り組みを検討しており、魅力的な提案ができると思っております。産業界全体と地域全体でMICEに対する知識を高めていかないと日本のMICEは発展していかないのではないかと思います。

MICEによって地域人材が掘り起こせる

近浪 新卒の入社面接で質問するのですが、はじめからMICEのことを知っているという学生は1~2割程度です。年々、この割合は増えてはいますが、まだまだ認知されているという状況には至っていません。MICEの社会的意義や魅力、国・地域に対して経済的な効果をもたらすことをもっと広めていきたいと考え、今回の東洋大学や立教大学での寄附講座は啓蒙活動の一環として行いました。

一方で、私が所属する日本コンベンション協会(JCMA)では次世代人材によるプロジェクトを立ち上げ、3つの課題に取り組んでもらっています。その課題とは「交流」「育成」「提言」です。MICEを通じて、若い人同志の横のつながりをつくり、また学習して知識を深めてもらい、そして既成概念がない柔軟な頭で「これからはこうしたい」ということを提言してもらいたい、という思いを私は持っています。

私の世代は、コンベンション創成期の第一世代の方々から「精神」や「哲学」を教えていただき、それを受け継いできた、いわば第二世代です。実際の現場でのテクニックやノウハウなどは、それぞれの現場で工夫をすればよいのですが、先輩方から受け継いだ「精神」や「哲学」、それに込められた「想い」は、大切に次の世代に引き継いでいかなくてはならないと思っています。

MICEは学生やこの分野に従事している人に限らず、老若男女を問わず地域の人々にとって、何かしらの啓蒙や啓発につながるのではないかと思います。

たとえば、北九州で国際会議を私が担当していたときのことです。国際会議の参加者と交流をはかる地元市民ボランティアの方々のサポートをしました。そのときに、外国人の自治体職員の方と、地元のシニアボランティアの方が流暢な英語で話をしていらっしゃる姿を拝見し、私は、「なぜそんなに英語がお上手なのですか」と尋ねました。元々商社にお勤めで海外勤務が長いということで、ご夫婦そろってとてもきれいな英語で会話を楽しまれていた姿が印象的でした。

このように語学力に秀でていたり、知的好奇心の高い人材が、実は地方には大勢いらっしゃり、MICEはそうした能力を持つ人材を掘り起こすきっかけにもなるのだと感じています。

MICEの現状

訪日観光客数が伸びています。ビジネス目的であるMICEによる訪日客も伸びている中でMICEの現状に対する課題等、それぞれの立場からご意見をお聞かせください。

稼ぐことができる産業に変わることが大切

井上 MICEというものは社会に対する効果は高く、社会貢献的な意義が強く、そういった部分がクローズアップされてきました。ただ、もっと魅力が分かる伝え方を考えなくてはならないし、加えてもっと儲かるビジネスであるという認識が広まれば、人は集まってきます。そのためにはMICEがきちんと収益をあげる、すなわち産業化していくことが大切です。

今は中学受験用のテキストにも観光のことが触れられるようになり、地域創生のための観光という形で子供たちは学んでいます。そして、大学では実務に近い観光学を学ぶこともできます。こうした観光に関する教育の下地ができつつある中で、MICEはより刺激的な夢のあるビジネスであるということを見せていきたいですね。

日本の弱点は国内マーケットが充実していること

馬鳥 パシフィコ横浜に限らず、日本国内のマーケットは非常に安定しています。開催学会数も多いため、施設の稼働率もいいわけです。ところが台湾や韓国などは、国内の需要が日本ほど大きくないので、海外マーケットに頼る、すなわち国際イベントを誘致するしかないという状況です。

一方、逆にいえば、日本はそれらの国に比べると国際会議に対するアピールがまだまだ弱いといえます。国際会議の誘致競争において日本は、提案の内容も良く、会場の評価も高いのに、誘致に到らなかったりします。もうひとつの問題は資金力です。医学系の学会の場合は予算もしっかり取れるので、日本のキーマンの先生たちも、国際学会を取りにいこうというときには協力をいただくことが出来ます。一方、工学系の先端技術の学会などの場合には、関係するメーカーなどから資金の協力をいただけるような仕組みが整っておらず、産業界とMICE業界との連携は資金力の点からも大きな課題になっています。

また、企業が自分たちの商品を見せるプライベートショーや社内表彰、インセンティブイベント行事などが海外では盛んです。日本ではコーポレートイベントの需要についてリサーチ不足だと感じており、これらに対してのセールス活動はまだまだ不十分だといえます。

さらに、こうした「M:ミーティング」、「I:インセンティブ」のほかに、私たちが大切にしなければならないのが 「E:イベント」です。パシフィコ横浜では年間約70件のライブコンサートが行なわれています。パシフィコ横浜の国立大ホールには5000人収容可能ですが、2021年に向けて同じみなとみらい地区内に音楽アリーナ2施設の開業が予定されています。

音楽業界ではCDが売れなくなってきて、アーティストはライブの回数を増やして収益を上げるという構造になっています。同地区で収容人数が異なる音楽アリーナの開業を、逆に誘客強化の機会と捉えて主催者のニーズに応えるセールス活動に繋げていきたいと思っています。

BtoBのインバウンドといえるMICE

近浪 井上参事官がおっしゃる「MICEの産業化」はまさに私たちの課題です。アメリカでは「下請業」「代理業」では会社がもちこたえられないという状況になっています。「仕事を請負い、安価で担う」ことがそぐわない時代となっているのです。

私たちがお客様に請求する内容の中には、代理業務的な部分が多くを占めています。しかし、実は、私たちが思考力と多くの時間を使っている部分は、コンサルティングなどのお客様のニーズに応え、課題を見出し、解決するというサービス部分なのです。私たちは、弁護士や司法書士などのような、目に見えないサービスの提供により成果報酬を得られる高度な専門業に学び、業務内容に反映できるようにしなければならないと考えています。

たとえばMICE の価値とは、その場(ライブの場)に行って新しいことを知る、人が集い、交わることですが、今はインターネットの動画サイトで医学の最先端情報なども公開されているため、わざわざ学会に参加しなくてもいいと考える人も出てきています。このままでは、参加者減少により学会開催を見送るという流れが生まれてしまう可能性さえあります。そうした状況の中で、私たちはいろいろな打開策を考えないとなりません。たとえば、学会というリアルとバーチャルを組み合わせる、エンターテイメントの要素を強化するなどして、ライブで集うからこそ得られる価値を生み出し、参加者に提供することが考えられます。

このように、参加者数減少という主催者の悩みや課題に対しての解決策を提案するというコンサルティング的な発想が必要だと感じています。また、多面的な取り組みを提案、実現するためにはMICE業界を包括するような横軸連携を強めていく必要もあると思います。

馬鳥さんもおっしゃっていましたが、MICEの誘致を取り上げてみても、国内マーケットの弱い国々のPCOはどれだけ海外からの案件を取り込めるかに必死になっています。すなわちBtoBのインバウンドといえるMICEを活用して経済効果をあげようということです。日本は国内マーケットが大きいため、誘致については遅れをとっていますが、BtoBのインバウンドによって国益をえる意識で、海外とシビアに戦わなくてはいけない時代になっていると考えています。

MICEの未来

ゴールデンスポーツイヤーズと呼ばれる国際的なスポーツ大会や、2025年大阪万博など、日本への関心を拡大する大型イベントが開催されます。それぞれの立場から大型イベントに対する取り組みをお聞かせください。

説得の苦労がいらなくなる時代

井上 MICEの未来は明るいと思っています。なぜなら、この数年、国内におけるインバウンドに対する関心が非常に高まっており、政府においても政府全体で取り組むアジェンダとなり、多言語化、Wi-Fiなど外国人受け入れのための環境整備が加速的に進んでいます。かつてない日本への世界的な関心の高まりの中で、本年は元号がかわり、6月にG20、その後ゴールデンスポーツイヤ
ーズと呼ばれる国際的なスポーツ大会が相次いで開催され、大阪万博も控え、MICEにとってはポテンシャルの塊の期間だと思っています。10年に渡ってこれだけのイベントをシリーズ化できた国は今までどこにもないのではないでしょうか。

また、こうしたイベントの開催に伴い、関連したスポーツ団体の会議を日本でやろうといったアイデアが付随して出てきます。たとえば、2025年の大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」なので、ライフサイエンスやIoT、AIなど先端技術の会議が開催される可能性も出てきます。こうして国全体が、様々なイベントで盛り上がっているときには、イベントや関連する会議開催の理解が得やすくなるという最高の時期が到来するわけですね。MICE業界のこれからは本当に明るいと思います。

大きな大会を経ることで固くなる絆

馬鳥 2002年のFIFAワールドカップ日韓大会のときには、横浜で決勝戦を含む4試合が開催され、市民ボランティアが1,500人、組織委員会側のボランティアが2,000人集められました。その方たちの一部が、ワールドカップボランティアの会として、実は今も残っており、パシフィコ横浜で開催される大型の国際会議などでもお手伝いをしてくださいます。

大きなイベントがあれば、それがレガシー(後世に向け残された価値)を生むといいますが、ワールドカップボランティアの会の人たちのつながりも大きな資産になっています。これから迎えるゴールデンスポーツイヤーズでは、それに関連した会議や関連コンベンション開催などの波及効果も見込むことができます。それが、ボランティアの方々の新しいつながりを作って、未来に繋がる資産になっていくはずです。コンベンションというのはリアルな世界です。リアルな物を集めて、リアルに人が集まって交流します。若い人たちの間では、スマホに代表されるように、バーチャルなコミュニケーションが中心ですが、こうしたリアルコミュニケーションの場がより一層重要になるはずで、MICEに対する注目は今後も増えると思います。

注目したいBtoBのホスピタリティビジネス

近浪 インバウンドが右肩上がりの時代に、これまでホスピタリティビジネスが注目されてきたのは、主にBtoCですが、これからの可能性としてBtoBに展開していきたいと考えています。

大型の国際的なスポーツイベントでは、駅からスタジアムに向かう所に企業のパビリオンが数多く並んでいて、飲料会社のパビリオンでは、一般の人に無料でドリンクのサービスなどをしていましたが、このパビリオンは、実は企業が取引先などクライアントをもてなす場所として活用するというBtoBのためのものでした。その他にもたとえば、ビッグクライアントを家族で招待し、食事を提供したり、お土産を渡したりするというVIPに対応する特別なブースとしても使われていました。

弊社では、FIFAワールドカップロシア2018公式ホスピタリティプログラムの日本における企業・個人向けの販売を担当しました。ある企業では、成績の良かった代理店にインセンティブとして、ホスピタリティプログラムのチケットを提供するといった活用をしていました。このことから、企業はBtoBにおいても、販促やインセンティブなどにはしっかりと予算を割くということがわかりました。これからのゴールデンスポーツイヤーズでも、それぞれの国や企業のパビリオンが準備され、スポーツ関係者だけでなく、政財界の人が集まることが考えられます。そうしたホスピタリティに関わる部分に注目していき、ビジネスを進め、ネットワーク構築の場として、BtoBのインバウンドであるMICEでチャンスを掴んでいきたいと考えています。

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