コラム

2018.01.04

TIリテラシーのコラム企画を「MICE Japan」で開始しました


MICE Japan2017年12月号より、当社社員 東川静香による連載「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」がスタートしました。国際会議の運営をはじめ、国際的なビジネスで活躍するには、単に言葉が話せる・読めるというスキルだけでは不十分です。そこで、国を超えたビジネスや翻訳・通訳に関わる人々に不可欠な能力を、TI(翻訳通訳)リテラシーという観点から解説します。

第1弾のテーマは「Is Japan Really Back?」です。

Introduction

安倍政権の“Japan is Back”では、「国際会議開催国No.1」が謳われています。そのため、会議場・展示場の建設やIR設立に関する議論等が目立ちますが、国際競争力を考えれば、ハード面だけではなく、ソフト面からのアプローチも考える必要があります。また、「グローバル人材育成強化」も謳われているため、日本が英語モノリンガル教育*2に傾倒している印象を受けますが、その結果日本語も英語も覚束ない人材が育つのでは?と懸念している関係各位もいらっしゃるのではないでしょうか。“Japan: The Minority in the World”という認識のもと、「TIリテラシーから探る真の国際競争力」について、この連載で紹介していきたいと思います。

*2:英語モノリンガル教育とは、英語を英語で学ぶという教育方法です。しかし、我々日本人の頭の中には既に日本語があり、英語を英語で学ぶという方法は、最善の方法ではないということが論文等で紹介されています。なぜ英語モノリンガル教育ではいけないのかについては、第4回で紹介します。

Worldwide Ranking: Number of Meetings in 2015

国際会議開催数は、世界で2つの機関が出している統計がありますが、それが混同されている印象を受けます。1つめは、ICCA (The International Congress and Convention Association) が出しているもの。2つめは、UIA (Union of International Associations) が出しているものです。

  • ICCAの場合

    • 1:アメリカ
    • 2:ドイツ
    • 3:イギリス
    • 4:スペイン
    • 5:フランス
    • 6:イタリア
    • 7:日本
    • 8:中国
    • 9:オランダ
    • 10:カナダ
  • UIAの場合

    • 1:アメリカ
    • 2:韓国
    • 3:ベルギー
    • 4:シンガポール
    • 5:日本
    • 6:フランス
    • 7:スペイン
    • 8:ドイツ
    • 9:イタリア
    • 10:オーストラリア

このように、使用する統計が違えば、ランキングが異なります。日本政府は、2030年までにアジアでNo.1の国際会議開催国としての地位を確立する目標を掲げていますが、ICCAのデータであれば、アジアの中では既にNo.1です。しかし、UIAのデータでは同じアジアの韓国とシンガポールにその地位を譲

Language for International Competitiveness

国際競争力を考えた時に、論理的思考に欠けていれば、世界では蚊帳の外におかれることが予想されます。英語と日本語は一つ一つの言葉が違うだけではなく、その言葉の持つ概念も違えば、文章の構成も違い、単に辞書で調べて言語の置き換えをしたところで、翻訳や通訳が成り立つわけではありません。それを理解しないまま外国人とディスカッションをしても、分かり合えないどころか、負の結果を引き起こしかねません。 このような背景はおそらく政府も認識していて、英語モノリンガル教育の流行の背景となっているものと推察しますが、その結果、母語の日本語での思考回路さえもが欠落し、外国語である英語での思考回路は存在し得ないか、存在しても欠落したものとなっているという状況が考えられます。
言語能力にはBICS (Basic Interpersonal Communication Skills) とCALP (Cognitive Academic Language Proficiency)があるため、日本語も英語もBICSレベルであれば、国際競争力に必要な言語能力は望めません。
しかし、現実ではどこの会社も海外留学経験がある等のBICSレベルの人材で英語の業務を行っているのではないでしょうか。海外の大学において英語で卒業論文を執筆したというようなCALPまでの移行が可能な人材を雇っている会社も存在はするでしょうが、国際競争力に必要な言語能力は、CALPさえもが最終形ではありません。
国際競争力に必要な言語能力を持つためには、両言語におけるBICSからCALPへの移行が可能で、かつMediation(Translation + Interpretingという仲介) 能力(第4回で後述)とTIリテラシー(第2回で後述します)が必要となります。

Language for International Competitiveness = BICS + CALP + Mediation + TI Literacy

しかし、日本ではプロの翻訳者・通訳者さえもが、翻訳通訳理論を学んでいないという状況なので(第6回で後述)、現在の日本の英語教育では国際競争力は望めないというのが現実ではないでしょうか。

Japanese Don’t Think Logically

例えば、若手社員と「これができるか、できないか」という話をしている時に、「できます」もしくは「できません」という回答はもらえても、「Why?」の部分の回答はもらえないことが多いように思います。論理的思考があれば、納期からの逆算で「こうすればできる」もしくは「これではできない」というプロセスが算出されるはずですが、「やる気があればできる!」、「やるかやらないかだ!」等、業務のズレをむりやり埋めようとする精神論が、今の日本には蔓延しているのではないでしょうか。そのため、業務を論理的に考えるということも習慣化されていないのだと感じます。これでは、国際競争力どころか、国内で戦力となる人材がつぶれていく気がします。

Why Do Japanese Apologize Meaninglessly?

私は社内で国際会議運営における海外担当の若手教育も担っていますが、彼ら彼女らの作った英語を読んでいてよく思うのは、日本語をそのまま英語にした結果、(英語では)いったい何を言いたいのかが分からないということです。中でも一番多いのが、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」、「ご返信が遅くなり申し訳ありません」等、とにかく日本人はごめんなさいというのが好きだなと感じます。しかし、英語では“I’m sorry.”と言えば、“For what?”と聞かれますし、何よりも自分に非があるということを認めたということになります。これは、海外とやりとりをしていく上では大変危険なことです。

Big Differences Between English & Japanese

例えば、国際会議における依頼状を日本語で作成するとすれば、どのPCOであれA4サイズ1枚ものを郵送することが多いのではないでしょうか。しかし、海外ではそれが主流ではなく、メール本文で添付も無く、必要な情報だけを書いてあって、A4サイズの1/3程度の分量であったりします。日本語の文章には、小学生の時に教わった「起承転結」が根本にあり、何を言うにしても前置きがあって本題に入るということが根付いていると思います。しかし、外国人にそれを英語にしたものを送れば、何を言いたいのかわからない、もしくは「バカなのかな」と思われるかもしれません。これは、クレームにつながるので、避けなければいけないですよね。まずは本題を言う。そして何度も同じことを言わない。できる限り手短に。英語ではそれらが非常に大切となります。

What is Communication?

Oxford living Dictionariesには“The successful conveying or sharing of ideas and feelings.”と記載があります。これは言い換えれば、お互いのWin-Winを築けることではないでしょうか。今後海外をターゲットとしていく日本にとって、Win Winをめざすためには、まずは日本の常識をいったん脇に置いておいて、世界の中では日本はマイノリティであるということを認めることから始めたいものです。

Why Japan?

日本がDestinationとなるために、日本の何がいいのか、私達はそれを海外に伝えていかなければいけません。そのためには、私達自身がまず日本を好きになること、そして日本を知ることが大事だと思います。世界の中の日本、マイノリティだけど、小さな国だけど、でもだからこその日本文化が、世界に誇れるものが、この国にはあると言えます。 日本では「国際会議開催国No.1」とすぐに結びつくのは会議場やホテル、展示場、カジノ等、たくさんの箱だと思われがちですが、これからのMeetings Industryでは、それだと国際競争力は望めません。これからこの業界で真のキーワードとなるのは、Story Tellingだと私は思っています。特に、海外のこの業界の人たちと話していると、必ずと言っていいくらい“Story Telling”が出てきます。これは、すなわち日本をプレゼンする能力だと思います。なぜ、国際会議において日本文化を紹介するのか。なぜ、その文化は今も継承されているのか。これから生き残るために、その文化は時代の変化とともに、どう歩んできてこれからどう歩んでいくのか。それを、いかに海外の人たちに伝えるのか。おもしろい、奥が深いと思わせて、また日本に来させる。それが今この業界に必要とされていることではないでしょうか。そのためにも、日本語と英語の両方が必要で、TIリテラシー教育が必要であるという認識が広がることを願っています。本当にJapan is Back.と言えるのは、それからなのではないでしょうか。

次回は、“Why TI Literacy Now?”というタイトルで、なぜ今Meetings IndustryにTIリテラシーという観点が必要なのかを書きます。

References

東川静香(2017) 『国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学

東川 静香

2008年より、日本コンベンションサービス (株) にて国際会議運営における海外担当に従事。
2014年、関西大学大学院 外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域に入学。2017年同大学院において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員

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