平ヶ岳登山のショートカットについて考える

平ヶ岳登山の総合情報提供をめざすこのホームページでは、環境保護の観点からこのコースのことに触れたくないのですが、迷ったあげくこの説明を加えておくことにいたしました。

ショートカットのコース

平ヶ岳は鷹ノ巣側の登山口から6時間半位かけて山頂に上るのが現在の正式なルートですが、昔は奥只見湖側の中ノ岐林道から池ノ岳北直下まで車で入り、平ヶ岳沢付近を登り平ヶ岳山頂まで3時間程で登る方法があったようです。

1997年7月18日の地元の新潟日報の記事「通行危険、村が措置 夏山迎え利用者に波紋」の一部を引用すると:

 奥只見湖沿いの国道352号、雨池橋近くの林道入り口にゲートを設置したのは、林道を管理する湯之谷村(現在は魚沼市)。設置の理由は「安全管理の徹底」。村によると、林道は路盤が掘れていたり、落石や鉄砲水の危険もあるという。これまでも立ち入りを禁止する鎖が張られていたが、鎖は何回も壊され、事実上野放し状態だった。山岳関係者によるとこの中ノ岐コースは、林道入り口から車で奥へ10kmほど入れるため、正規の鷹ノ巣コースの半分の時間で登れる平ケ岳への近道。最初、管理道路的に開拓されたが、昭和61年に皇太子がこのコースを利用してからその存在が広く知られるようになった。

 近道だけに利用者も多く、昨年の入山者数が1200人(登山者カードによる)だった鷹ノ巣コースの2倍近くはいると推定されるほか、渓流釣りの利用もあるとみられる。村では、混乱を避けるために山岳雑誌などで今回の措置をPRすることにしている。

 一部には「きちっと整備して開放しては」との意見もあるが、村は「正規の鷹ノ巣コースがあり、ここを登山ルートとして売り出す考えはない。一般車を通すには危険すぎる」として今回の措置を決めた。

 村は、地権者で林道周辺を共有地として利用している同村宇津野の関係者の通行は特例として認める考え。

このことを地元の登山情報に詳しい方にうかがったところ「この林道・中ノ岐線から入る中ノ岐林道コースと呼ばれる近道は、コースタイムの短さ故に入山者が増加して自然保護の観点から登山道が閉鎖されたようだ。このコースの難易度はたいしたことはないものの、池ノ岳山頂の湿原保護の観点からも薦められることではない。」と話していました。

日本百名山と平ヶ岳登山ショートカット

昨年のアシックスの広重恒夫さんがマスコミで話題になった頃から百名山を何日で登れるかの競争が騒がれていますが、登山の専門雑誌の「岳人」1997年10月号の投稿コーナー「かわら版」では、「山の数稼ぎも面白いだろうが、もっとゆとりをもって自然を味わいたい」、「深田さんも嘆じているはず百名山ブームの終演を期待する」など百名山批判が大きくとりあげられています。百名山ブームの影響は平ヶ岳にも及び、以前の中ノ岐林道コース(ショートカット)が百名山をめざす人の正式な登山ルートとなることを私は恐れています。

山の登り方は、各人状況によってまちまちであるべきで、人の登り方にとやかく口出しするのは筋違いですが、このショートカットのルートを選択する理由が単に時間が稼げるから選ぶとい言うのは悲しいことです。先日のニュージーランドの青年で日本百名山を最短時間で登る目的で平ヶ岳を6月14日に登った時は、登山開始16:40、山頂19:10、下山時刻21:45の記録を残しています。これでどの程度の平ヶ岳の良さを知り得たのか疑問を感じます。

 

環境保護の問題

平ヶ岳の山頂は、近くの会津駒ヶ岳の山頂同様広い湿原が広がっています。そのため木道が整備され湿原内に入ることを禁じています。しかしこのショートカットでは頂上付近からこの湿原の中を歩くことになり、このコースを使用する登山者が少ないかもしれないが、どう考えても湿原保護の観点から立ち入り禁止とされてしかるべきでしょう。

心情的にも、朝一で平ヶ岳の山頂に到着したつもりでいると、どこからともなく軽装の中高年ハイカーがゾロゾロと現れてがっかり、という光景にはお目にかかりたくないものです。

 

登山道が地図に出ていない

現時点では、どこの登山ガイドブックにもこのショートカットの登山ルートを具体的に地図上に表示しているものは在りません。インタ-ネットでこのルートに近い登山記録を読むと滝をいくつも越えて登るとか、沢の中を歩いて登るとか、かなり沢登りの技術を要求さるような説明もあり、このルートの実際の難易度はまったくわかりません。そのため地形図に道が明確に示されていこのショートカットを選択するべきでないと考えます。しかし、最近このルートをハッキリ表示しているガイドブックではなく、市販の地図が存在することがわかりました。

緊急時のエスケープルート

ただし、山頂で不測の事態が起こった時にはこのルートの使用も考えられますが、過去にこのルートの使用経験が無い限り、地形図にも出ていないこのルートを当てにすることは、さらに不測の事態を重ねることになり、当てにはできません。

車による林道利用

鷹ノ巣登山口の駐車場は小さいながらも整備されていますが、この中ノ岐林道は当然未舗装で大変道の状態が悪く、人の頭ほどの石がごろごろと言われている一方、マイクロバスで送迎が可能との話もあり、駐車する場所など含め林道の状況が全くわかりません。一般の車は入り口にゲートが設置されたため、中ノ岐林道からの登山口まで入れず、国道352号の奥只見湖側からこの中ノ岐林道終点まで10km位を歩くことを考えると、山頂まで鷹ノ巣側から入る場合の時間とたいして変わらなくなり中ノ岐林道からの登山の利点はなくなります。

 

地元へ電話確認した話

平ヶ岳麓の宿泊施設の中にははマイクロバス(定員15名)で中ノ岐林道の登山道入り口まで送迎してくれるところがあるようです。ただし人数がまとまる必要があり、最低の人数は平日で10人位からだそうです。平ヶ岳までの道はハッキリしていて最近も草刈が行われたようです。道は池ノ岳と玉子石の中間の湿原地帯に出るようで、その様な道が湿原の中にあったような気がします。やはりこの登山道は公のもではなく宿泊客のみ使えるように言っていました。林道入り口のゲートの鍵は麓の宿泊施設で所有しているとのことでした。

一方、直接湯之谷村の奥只見郷インフォメーションに問い合わせたところ、この林道は私有地を通るため一般には解放していないと言ってそれ以上の話は聞けませんでした。

今年ニュージーランドの登山家が日本百名山を74日で登る話がありましたが、そのホームページの平ヶ岳によると、やはりこの中ノ岐林道を使っています。この時は途中の橋が台風で流され、そこから歩いたと書いてありましたが、先ほどの宿泊施設の話では昨年の雪のため橋が壊れ、現在修理中とのことでした。

 

参考資料

最近出版された「夫婦で登った百名山」の本にも、このコースのことがでてきていますが、その元の情報は、山岳雑誌「岳人」の別冊、日本百名山の記事からの情報と思われます。また現在書店で発売されているNHKの趣味の講座のテキストである「中高年のための登山岳、日本百名山をめざす」のコースタイムのページ(170P)では、なんと平ヶ岳の登山コースとしてこの中ノ岐林道からのコースを紹介し、車で入るには地元の人でなければならないと注釈付きでしたが、困ったものです。
最近の週刊金曜日(1998.7.3、225号)には加藤久晴氏によるこの平ヶ岳ショートカットのことが詳しくレポートされ、皇太子の1986年10月の平ヶ岳登山のために相当な税金と地元の人々の努力により、この新しいショートカットルートが開かれたと書かれています。どうりで山頂には年間1,000人ほどしか登山者のいない静かな場所にふさわしくない程の木道、看板、導標がありました。この記事では平ヶ岳以外の皇太子登山の話もあり、登山と自然破壊の問題を別の視点から考えさせられます。(この記事は週刊金曜日編集部の転載許可をいただき、このホームページでは写真を除く全文を掲載させていただいています。)

鷹ノ巣尾根コースの薦め

私としては平ヶ岳の山を十分満喫してもらうためには、鷹ノ巣側の登山口からじっくり変化を味わいながら登って欲しいと思います。鷹ノ巣側からのコースは、前坂と呼ばれる松がところどころに生えているやせた尾根道は見晴らしがよく谷川岳の黒岩尾根に似ているし、続く台倉山の尾根道は燧ヶ岳、会津駒ヶ岳を見ながら歩け、白沢清水のある尾根道では小さいアップダウンがあり縦走気分が味わえ、最後の池ノ岳への登りと変化があり、時間がかかるにも関わらず飽きさせない、良いコースと考えます。

山の風景は光が急激に変化する夕方、また空気が安定している夜明けがすばらしく、この平ヶ岳も早朝からの日帰り山頂往復ではなく、テント持参での一泊登山を体験することを是非お薦めいたします。


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