キャサリン・メイヤーさんの「山でウンコをする方法」の本の中には見逃せない重要な事が書いてありました。アメリカでは山の中の水はまず飲めないと考えた方が良いと言っています。ジアルディア・ランブリア(学名:Giardia lamblia)という寄生虫が水の中にいて人間に感染するとあります。もっとも訳者の近藤純夫氏がこの件でコメントを付け「日本では発生例がない」と書いてあります。この本が執筆されたのは1989年で、日本で翻訳されて発売されたのが1995年であることを考えると、現在の日本国内ではジアルディア・ランブリアによる感染例およびこの寄生虫の存在はどうなっているのでしょうか。非常に興味があるところです。そのため、このページでは、一般的な文献やインターネット上で調べた結果をもとにジアルディア・ランブリアについて考えて見たいと思います。最初にこの「山でウンコをする方法」の本のジアルディア・ランブリアに関する記述を見てみましょう。
キャサリン・メイヤーさんの記述:
アトランタの疾病対策センターによれば、世界中のいかなる表流水も、ジアルディアシス(鞭毛虫の一属)と呼ばれる寄生虫病の原因と無縁ではないと言う。これは自然界においても人間の体内でも、なかなか根絶しない病気なのだ。致死性はないものの、体を衰弱させる不快な症状を起こし、慢性化することが多い。また、発病しなくてもキャリアとなっている可能性がある。このジアルディア(シス)は医療の世界ではまだ新種の病気なので、特有の症状を挙げておこう。ジアルディアの症状
- 摂取後、7日から10日のうちに、突然、爆発的な下痢に襲われる(特にハイカーや外国旅行帰りに多い。ほかに感染源として考えられるのは、家庭のイヌやネコ、保育所などだ)。
- 悪臭を放つ緩い(小便ではない)、大量の大便。
- 腹部の膨張、張り、痛み。こうした現象は食後に起こりやすい一徹しい下痢よりも、この症状の組み合わせで発病するケースが多い)。
- 吐き気、嘔吐、食欲不振、頭痛、微熱を起こす場合がある。
- 激しい症状は7日から21日ほど続く場合があり、慢性的になったり、ぶり返すこともある。
- 慢性化した場合、栄養の吸収能力が衰え、ひどい体重減を生じる場合もある。
- 慢性化した場合、悪臭を放つ大量の軟便が続いたり、繰り返されることがある。この便は水に浮かび、明るい色をしている。
- 慢性症状としては、腹の張り、便秘、胃けいれんなどがある。
- 慢性的な感染は数年続くことがあり、自覚症状のないまま、ジアルディアを排泄している恐れがある。
(ほとんどのケースは4週間から6週間で自然治癒するが、ジアルディアにかかったかなと思ったら、検便をして、医者に診断してもらおう。ただし、ジアルディアのこうした症状は決して固有のものではない。腸疾患の多くはたいてい似たような症状を示す可能性がある)
正式にはジアルディア・ランブリアと呼ばれるこの寄生体がなぜ、こうも急速に自然界に広がっていったかについては、いまのところはっきりとした説がない。伝達の経路は調査中だが、この寄生虫は動物と人間の間を行き来できることが判明した。世界中の腸に寄生する虫の多くがそうであるように、ジアルディアは便から口を通して蔓延する。ある種の感染性生物は便の中に散らばり、口を経て新しい宿主あるいは犠牲者へと侵入するのだ。ジアルディアは2段階のライフ・サイクルをもっている。活発な第1段階はトロワォゾイトと呼ばれ、栄養をとりながら繁殖する。けれども、排泄されるとすぐに死んでしまう。第2段階は休眠状態の包嚢の働きだ。この包嚢も便とともに排泄されるが、こちらは耐久力があり、外部の環境でも生き抜くことができる。
直接便から口へとジアルディアが移る割合が多いのは、保育所などの施設だ。食品を介した伝染を含む、人と人との接触によって起こる伝染については、しっかりと手を洗うことで防ぐことができる。自然界でより大きな問題となるのは、飲料水を媒介とする伝染だ。湖や川から持ち帰った包嚢は何ヶ月も生き続けるのだ。とりわけ冷たい水の中では耐性が強い。
ジアルディアの包嚢は川の源流でも見つかっている。こうした水がやがていくつもの支流を集めて大きな流れを形成する。もちろん、川によって濃度はマチマチだろうが、コップ一杯くらいならば直接口にしても構わないだろうという考えは捨てた方がいい。そんなことで危険を背負い込むのはばかばかしいだけだ。確率的に言うなら、空から雨が降って地面に落ちた瞬間か、または地面から湧き出た時点で、すでにジアルディアが発生している恐れがある。
感染を引き起こすには、わずかな包嚢が腸に取り込まれるだけでいい。トーマス・サックは『飲食時の注意事項』で、便が自然の水路に入り込むさまざまなルートを論じている。
人間や動物による水への直接排泄、増水時にそうした排泄物を巻き込むケース、あるいは徒渉時に人間や動物の足などから入り込むケースなどがある。ジアルディアは動物たちの多くが体内に宿している。魚類、鳥類、は虫類のほか、30種の哺乳類でも見つかっている。特に動物の糞は人里離れた川の源頼にまで及び、汚染範囲の広がりはとどまるところを知らない。たとえば、水中で暮らすビーバーやマスクラットなどもキャリアとして知られている。しかしそれ以上に深刻なのは、この寄生虫を蔓延させる主役を人間が演じている可能性があるということだ。
米国では1970年まで、飲料水を媒介とするジアルディアの大発生は報告されていない。最初の大発生は、同じ年にコロラド州アスペンで起きた。続く4年間に、多くの症例が報告されたが、とりわけレニングラードから帰ってきた旅行者に多く発見されている。この現象は二つの要因の組み合わせから起ぎたようだ。当時、ソ連がようやく西側の人間の訪問に開放的になったこと、そしてレニングラードの市営上水道がジアルディアの包嚢でいっぱいだったことだ。ジアルディアの研究はアメリカでも地道に続けられていたが、大発生を契機に伝染経路に関する論争が起きた。実際、この寄生虫は1681年に始めて報告されて以来、世界各地で発見されているのだ。
訳者の近藤純夫氏によるコメント:
ジアルディアの現状
日本人にとって沢などの水が寄生虫に侵されているかもしれないという話は初耳だと思うが、欧米ばかりでなくアジア、太平洋地域にいたるまで広範囲に、ジアルディアニフンブリアという鞭毛虫による寄生虫症は報告されている。この寄生虫は経口感染を主とし、水や食物を通して口から入る。生水や生野菜、カットフルーツ、清涼飲料水やジュースに入った氷などから感染することが多く、熱帯諸国はもちろん、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国でも注意が必要だ。また、本書でも報告されているように、合衆国内の沢の水は安全とは言えない。別掲のフィルターなどは必需品となる。
わが国での発生例はほとんどないが、菌を持ち込んで帰国後に発病というケースがわずかながらあるようだ。
潜伏期間は最長で2週間。赤痢の症状に似ているが、主症状は下痢だ。軽症の場合でも腸炎のように小便が続き、かなり衰弱する。ジアルディア・ランブリアは胆嚢にも入り込むため、重症の場合は胆嚢炎などの障害を引き起こす場合がある。
インターネットからの情報源
以上は10年前に書かれた米国の話でしたが、さて現在の日本ではこのジアルディア・ランブリアについてはどうなのでしょうか。そこでインターネットから入手できた情報についてコメントします。さすがにインターネットでは専門的な医学のホームページや海外から持ち込まれる病気として渡航者用の海外の病気を解説しているページなどから詳細な情報が入手できます。民間の水問題の研究者の有田 一彦さんの「ARita環境情報」のホームページにはGiardia lambliaの読み方から「ジアルディア」の名称で呼ばれたり、「ランブル鞭毛虫」と言われる関係が記載されています。私も当初「ジアルディア症」と「ランブル鞭毛虫」とはまったく別物と思っていましたが、Stanford University HospitalのTravel Medicine Serviceの情報を日本語に翻訳したホームページの説明でこの2つが同一のもだと分かりました。ここでは海外渡航者の「旅行者下痢症"Traveler's Diarrhea"」の原因としてこの寄生虫の説明がなされています。なお名称の統一としては日本寄生虫学会の寄生虫学用語集寄生虫和名表寄生虫学用語委員会編 寄生虫学用語集および寄生虫和名表が参考になります。ここでは和名が「 ランブル鞭毛虫症」、「ジアルジア症」と記載されています。「ランブル鞭毛虫」の学術的な説明は国立予防衛生研究所、寄生動物部の遠藤卓郎氏の「検査のための寄生虫図鑑」ホームページの記述が参考になります。ここでは非常に綺麗な?ジアルジア嚢子 とジアルジア栄養型 (コーン染色)の微分干渉顕微鏡による写真によりランブル鞭毛虫の顔を見ることができます。また「ランブル鞭毛虫症」としての病理診断、十二指腸の組織所見、診断方法、ランブル鞭毛虫、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)、参考文献について体系だった説明は東海大医学部の学生4人衆が作成している「感染症の病理 Pathology of Infection」ページに詳しく述べられています。ここでは「ランブル鞭毛虫症」のことを生きた化石のごとく、「赤痢アメーバ、トリコモナスと並んで、ミトコンドリアを欠く真核単細胞生物の代表である。つまり、ミトコンドリアのもととなった紅色硫黄細菌が共生を始める以前の段階の、もっとも古い真核生物の名残ともいえる貴重な生き物である。」と説明しています。さらにジアルジア症(同義語;ランブル鞭毛虫症)について疫学、病理、症状、診断、治療と予防の観点からの説明が日本の岡山に本部を置く国連登録NGO「アジア医師連絡協議会」AMDAのホームページの「熱帯医学データベース」に記載があります。これらは日本国内の問題としてジアルジア症を扱っているのではなく、海外に人道的支援で出る場合に要注意の視点で書かれています。先の日本寄生虫学会のページでは厚生科学研究費補助金オーファンドラッグ開発研究事業 熱帯病治療薬の開発研究班(代表:大友弘士)によるランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)の基本的な説明と治療として詳しく4種類の処方が紹介されています。
今年3月に小学館から発売された最新の「家庭医学館 」ではこのジアルジア症のことがちゃんと記載されています。2106ページ。ランブル鞭毛虫による感染で、薬による治療方法が説明されています。説明では農村よりも都会に多いと書いてあり、山の水によりジアルディアに感染するようなことは書かれていません。またこの本以外の類似の家庭医学書にはジアルジア症の記述が全く無いことから、最近になって日本でもジアルディアによる感染症状が広まり一般的な病気として家庭医学書にも載るようになったと考られるのでしょうか。海外渡航者の持ち帰りの特殊な病気の位置付けから、アメリカのように屋外の自然の水からも感染するありふれた病気になっているのだろうか。日本の山岳地帯の沢や川のきれいな水からジアルディアが検出されるのも時間の問題でしょうか?
京都市の河合医院のホームページによれば、1997年に行われた厚生省の河川実態調査で寄生虫のランブル鞭毛中が、94河川中、16河川で検出されたことが出ています。この16河川がどこなのか興味のあるところです。また同じ年に厚生省は「水源に混入する微小動物等の安全性に関する研究会」を発足させ、1,2年後に答申をだすとありますが、今年当たりには詳細な情報が公開されるのでしょうか、期待したいものです。この寄生虫は塩素消毒やオゾン処理でも死なないため、アメリカでは水道による集団下痢がなんども起こっているとあります。厚生省のホームページの中にはこの情報のの元になったと思われる報道発表資料のページがあり、具体的な河川名、ジアルジアの生態等の詳しい説明がされています。是非河合医院のページと合わせてご覧下さい。この中では平ヶ岳を源流とする利根川などからは見つかっていません。ただし利根川の支流である群馬県の烏川からはジアルジアが検出されています。
このページでも触れられていた1998年の夏、シドニーの水道水から検出されたランブル鞭毛中による騒動の経緯を、豪州情報通信社の「豪遊ジャーナル」のホームページ、在豪主要新聞ニュースで読むことができます。シドニー水道局が「水道水を飲む前に、1分間以上煮沸する」指示をだし、規制範囲を狭めたり、広めたり混乱した様子を伺えます。このシドニーの水道水の問題は、前述の「ARita環境情報」のホームページにも詳しくコメントされています。また1999年1月4日には「シドニー水道・病原虫汚染、未だ終結せず」のタイトルでその後の情報を載せています。このように一時的にしか取り上げないマスコミ情報と違い、継続してこの問題を根気よく調べ報告しているページがあるのはまさにインターネットといえるでしょう。
アメリカのアウトドアの道具に欠かせないものに浄水器がありますが、この中には活性炭フィルターや化学薬品に抵抗力のあるジアルディアなどの原虫を除去できる能力を強調して販売されている浄水器(商品番号ST-KTMC/ミニカーボン)があります。
インターネットからの情報と入手できた文献情報とをまとめた百科事典風の記述
鞭毛虫(Flagellates ) 鞭毛虫は、移動につかう鞭毛という鞭(むち)のような突出物をもつことからこの名前がつけられている。原生動物の中ではもっとも原始的な群で、原生生物界鞭毛虫亜門に属する多様な単細胞生物の総称。体が1個の細胞からできていて,その中ですべての生活機能が行われているので、多細胞動物を構成している1個の細胞よりはずっと高度に分化している。最近の電子顕微鏡による研究で体の構造がきわめて精巧であることが明らかにされつつある。これは進化の過程で細胞の内容が分化しためと思われる。化石も古生代のカンブリア紀より出現している。
また鞭毛虫は植物界と動物界との間を結ぶ生物でもあり、植物、動物、菌類の特徴をあわせ持つ。鞭毛虫は世界の水のあるほとんどの場所に生息し、珪藻とともに海中の食物連鎖の重要要素である。鞭毛虫類は、植物性鞭毛虫類と動物性鞭毛虫類に大別され、動物性鞭毛虫類の中には他の動植物に寄生生活するものもある。ランブル鞭毛虫は動物性であり、ヒトの小腸に寄生する。
ランブル鞭毛虫( Giardia lamblia) ランブル鞭毛虫は、赤痢アメーバ、トリコモナスと並んで、ミトコンドリアを欠き、核膜にかこまれた核をもつ真核単細胞生物の代表である。つまりミトコンドリアのもととなった紅色硫黄細菌が共生を始める以前の段階の、もっとも古い真核生物の名残ともいえる貴重な生き物である。水の中の寄生虫で日本にはいないと書いている本もある。
1681年、光学顕微鏡の発明者のオランダ人 Antonj van Leeuwenhoekが自らの糞便の中に発見したのがこのランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)だったらしい。正式にこの原虫を記載したのは、ランブル(Lamble )で1859 年だったとされる。
生活史上、栄養型(トロワォゾイト、trophozoite)と嚢子(シスト、cyst)の2時期がある。(メイヤーさんの本の記述では栄養型のことをトロワォゾイト、嚢子のことを包嚢と表現されている)専門的には卵や成虫とは言わないようだが、意味合いとしては成虫が栄養型で卵が嚢子に相当する。栄養型は 長さ9〜20μm、幅 5〜15μmで洋梨の形をしており腹部吸盤で粘膜に吸着している。左右対称性の梨型で2個の核と4対の鞭毛を有し活発に運動する。十二指腸、空腸上部、胆管、胆嚢に寄生し、上皮細胞に密着して2分裂で増殖する。組織侵入性はない。4対の鞭毛は可動性が大きい。一二指腸で増殖分裂を繰り返し、空腸上部に至ってその粘膜面上で、貫通することなくその中に入る。胆道に迷入することもある。寄生数が増加すると下痢便になる。回腸や大腸を通過するときには、決して同部を侵さない。
嚢子は8〜12μmの卵円形で可動性がなく、成熟期の核は4個を有し、便中に排泄され、有形便内に観察される。外界で数週間生存可能である(水中では3ヵ月)。この型で寄生虫が大量に拡散される。嚢子は消毒剤抵抗性が高い。感染は嚢子の経口摂取による(水系感染)。飲み込まれた嚢子は十二指腸で栄養型となる。ヒト以外にも、イヌ、ビーバーなどに感染する(人畜共通感染症)。たまに豚やその他の哺乳類にも寄生し世界に広く分布している。しばしばヒトからヒトへ直接伝染することがある。ハエが受動的に嚢子をよそへ運ぶこともある。また、欧米先進国では発展途上国からの輸入症例の増加のほか、赤痢アメーバ症と同様に大都市での男性同性愛者に伝播する性感染症(STD)、あるいはAIDS関連疾患の一つにもなっているなど、最近はその感染と発症要因が極めて複雑多様化している。
症状
(症状はジアルジア症やディアルジア症、またはランブル鞭毛虫症といわれる)
ジアルジア症は下痢、腹痛、あるいは胆嚢炎・胆石症状を呈すのが定型的でいろいろな消化管障害を引き起こす。発症はふつう急速で、ときには激しい。食欲不振、腹痛、水様性下痢の急性胃腸症状を呈す。発熱はなく1〜3週間の潜伏期がある。しかし有症状者は、濃厚感染者にほぼ限られる。感染者の多くは無症状で、嚢子保有者である。下痢が最も主要な症状である。1日5〜10回の排便があり、早朝、食後に多く、便の性状は泥状または液状で、黄白色から透明、ときに粘液調もしくは卵白調でムッとする何とも言えない悪臭がする。まれに血液を含む。排便時に肛門部に灼熱痛をおぼえる。下痢がいつまでも続くことは少なく、間欠性だったり便秘と交替性だったりする。いろいろな消化不全(食欲不振、悪心、消化不良、鼓腸、腹部膨満)が起こる。治療を怠ると、全身状態が変化し、痩せが見られるが、平熱のままである。腸管は吸収不良状態のため高蛋白質を取ると下痢になる。
小腸の吸収不良症候群は、特に小児のジアルジア症例において合併しやすい。臨床上糞量が多く、悪臭を放ち、卵白色の便が特徴的である。るい痩がかなりひどくなる。組織学的には小腸粘膜はランブル鞭毛虫で覆われ、粘膜面は前述したような異状あるいは正常な状態となる。特別な治療の効果はこの吸収不良の特質により発揮されるがそのメカニズムの詳細は未だ仮説のままである(粘膜面に吸着した寄生虫により機能が遮断される?ランブル鞭毛虫と小腸細胞が栄養摂取で競合する?粘膜が病変部なのか?)
発生
ジアルジア症は世界各地に見られるが、特に人糞による寄生虫疾患が問題となっている地域に多い。衛生状態の悪い地域に特に多い。中近東、マグレブ、アンチル諸島、中央アメリカ、黒アフリカで特に感染が高い。熱帯、亜熱帯を頻繁に旅行する人にも多く開発途上国で活動した青年海外協力隊員やインド・ネパールへの旅行者に多い輸入感染症の1つである。ただし海外渡航者の下痢症状の病因の2%にすぎない。汚染された水道水を介する地域住民の集団感染や、小児収容施設での流行も記載されている。全ての年令に起こるが、特に小児と若年層に多い。自発的に小さな流行が、家庭や衛生状態が良くないところ(孤児院、精神病院、学校、収容所)で集団で発生する。欧米では、男性同性愛者間の性行為感染症としても重視されている。ニューヨークでは、旅行歴のない男性患者の 86% がホモセクシャルであると推定されている。全男性同性愛者の10% がキャリアであるとする統計もある。最近ではエイズなどの免疫不全症における本疾患による下痢症の合併(日和見感染)が顕在化してきている。
診断
正規の糞便検査で十分である。新鮮な下痢便を検体とすれば、可動性のある栄養型を認める。有形便の場合は直接検査では濃縮法(Teleman-Rivas法, Ritchie法)を用い、嚢子の存在を証明する。染色としてヨード染色法がある。硫酸あるいは炭酸マグネシウムによる《再活性》は役に立たない。それどころか薬物によって機能を停止させ、糞便検査を妨げたり、(内服の消毒薬で)偽陰性化させることになる。診断を確定するには何回かの検査が必要となる。というのは陰性から嚢子が糞便中に現われるまでに、5〜10日ほど間があるためである。十二指腸液の新鮮な検体は、胃ゾンデや特別なカプセルを用いて採取するとたくさんの栄養型が見つかる。十二指腸幽門部の生検は、他の吸収不良の原因を除外するときに適応がある。粘膜表面や絨毛中に寄生虫を検出する。また、ELISA、CFなどの血清学診断も試みられているが、その特異性や感度に関しては必ずしも評価が定まっていない。治療と予防
ジアルジア症の治療には下記処方のいずれかの薬物療法を行う。使われる薬剤は、激しい副作用を伴うことがある。メトロニダゾールmetronidazole(Flagyl、フラジール)は発売中止となったmepacrine に代わってアメリカ合衆国で頻繁に使われている。また国内数社から異なる商品名で発売されている。錠剤が250mg シロップが1匙125mg である。
チニダゾールTinidazole (Fasigyn、ファシジン:ファイザー社の製品) は、その他の国で頻繁に使われている。ニトロイミダゾール誘導体の上記2剤はともに抗トリコモナス薬として承認されているが本症にも有効である。副作用として消化器障害、ときに頭痛,眩暈,振戦などをみるが、小児に対する毒性は後述のキナクリンよりはるかに低い。しかし大量投与により鬱状態に陥り、投与中の飲酒はジスフィラム様反応を誘導することがある。また血液脳関門と胎盤を通過し、実験的発癌性と突然変異原性が報告されているため妊婦、血液疾患、器質的中枢神経疾患などへの投与は禁忌であるが、後者の副作用の方が一般に軽微である。
オルニダゾールornidazole(チベラール/Hoffmann一La Roche,500mg/錠)、secnidazoleは化学的にはmetronidazole に類似し、本剤も前2者と同様のニトロイミダゾール誘導体である。副作用は胃腸障害のほか、ときに頭痛、軽度の眩暈、稀に可逆性の末梢神経炎を呈することがあり、妊婦、中枢神経疾患患者には投与しない。なおスイスでは、125mg錠、注射液(500mg、 1,000mg)などの製剤もあるが、本研究班保有(厚生科学研究費補助金オーファンドラッグ開発研究事業 熱帯病治療薬の開発研究班、代表:大友弘士)の製剤は500mg錠のみである。
塩酸キナクリン(アテプリン/Bayer、アタプリン/Winthrop、l00mg/錠)治療効果は高いが,毒性も高いため最近はオルニダゾールによる治療が一般的になっている。副作用として頭痛、眩暈、胃腸障害、皮膚黄染が頻発するほか、痙攣(中枢神経刺激)、骨髄抑制、血液障害、発疹性乾癬、急性肝細胞壊死、角膜混濁を呈することも稀にある。そのため精神疾患や乾癬症患者、妊婦、乳幼児への投与は禁忌である。またMAO阻害薬との併用により有害反応の増強、プリマキンとの併用により、その血中濃度が5〜l0倍に上昇し体内停滞時間が延長するので危険である。なお本研究班は本剤の確保を中止した。
集団予防は糞便の処理問題があり、困難である。再感染を防ぐために周囲の者を含めて集団治療することは意義があり特筆される。
参考文献
腸管寄生鞭毛虫としてのGiardia lambliaの詳細は以下の本が参考になります。
- 寄生虫の世界(NHKブックス764 ) 鈴木了司 日本放送出版協会 1996.3 971円 ページ139〜143
- 地球の歩き方 旅マニュアル 世界の医療情報大百科 263 旅のドクター ダイヤモンド社 1998.12 1,840円 ページ163
- New寄生虫病理学 小島荘明 南江堂 1993.8 7,500円 ページ211
- 寄生虫病理学 第2版 金芳堂 1996.3 4,500円 ページ39
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