はじめに
1998年10月3日の日本経済新聞の夕刊によると平ヶ岳の下山途中に69歳の女性が体の具合が悪くなり病院に運ばれた後、死亡した事故が報道されました。同じ時期の他紙(朝日、読売新聞)にはこの記事の掲載は首都圏版(地方版には掲載されたかもしれません)にはなく、詳しい状態はわかりませんでした。地元紙の新潟日報には詳しい記事が掲載されたと思ったのですが、調べてみると10月3日の日刊紙に日本経済新聞の夕刊記事とほとんど同じ内容・分量の記事が掲載されました。多分この記事は警察の記者クラブなどで発表された内容がそのまま記事になったものと考えられます。著作権の問題もあり(?)、両方の記事で情報を補い要約しようと思いましたが、 ほんの一部が食い違っているだけなので、両方を比較できるように全文を掲載します。この2つの記事の情報の違う部分を読み込むと新しい事実があぶり出されます。(人名については、遭難の記事なので、匿名にしてあります)
日本経済新聞の記事は(10月3日夕刊)
下山途中に女性死亡
新潟県・平ヶ岳2日午後4時半ごろ、新潟県湯之谷村宇津野の民宿から「平ヶ岳(2,141m)に登山した女性が下山途中に体の具合がわるくなり、動けなくなって救助を待っている」と小出署に届けがあった。
調べでは、女性は東京都の無職、S.N.さん(69)。登山口まで搬送されたが、意識が無く、病院に運ばれ、午後9時45分死亡した。
新潟日報の記事は(10月3日日刊)
平ヶ岳登山で死亡
東京の女性2日午後4時半ごろ、北魚湯之谷村の平ヶ岳に登山中の東京都のS.N.さん(69)が気分が悪くなった、との通報が小出署にあった。
同署などで救助隊を向かわせたが、S.N.さんは同行者や地元関係者らが背負うなどして下山途中に意識不明になり、救急車で小出町の病院に搬送されたが、同日午後10時前、死亡が確認されました。
記事の分析
日経の記事ではわかりませんが、新潟日報の記事は同行者の記載があり、その人が先に下山して近くの民宿に連絡を取ったと思うのが普通ですが。日本経済新聞の民宿の住所「湯之谷村宇津野」に注目してください。平ヶ岳登山は登山道が1本しかなく東側の鷹ノ巣側からの道が正式なルートです。この登山口の住所は、湯之谷村鷹ノ巣で「湯之谷村宇津野」ではありません。この住所は銀山平の住所です。救助をもとめた民宿は正式ルートの鷹ノ巣の登山口ではないことになります。鷹ノ巣の登山口に一番近い連絡先は「ヒュッテふらんどる」か「清四郎小屋」ですが、「ヒュッテふらんどる」には電話がありません。そのため「清四郎小屋」となりますが、ここは民宿と言うよりは山小屋です。
したがって新聞記事にある民宿とは明らかに銀山平の民宿となります。さてこの民宿とはどこの民宿でしょうか?先程平ヶ岳の正式登山道は1本しかないと書きましたが、実は登山道はもう1本あり、北側の奥只見湖の銀山平の西側の中ノ岐林道を池ノ岳北直下まで車で入り、平ヶ岳沢付近を登り平ヶ岳山頂まで3時間程で登る道です。このルートは1986年の皇太子の平ヶ岳登山のために特別に突貫工事で整備されたもので、最近は銀山平のある宿ではこの中ノ岐林道を池ノ岳北直下の非公式の登山道入口まで車で送迎している話があります。銀山平から非公式の登山道入口までの距離は長く車でも30分位と聞いています。
したがって今回の事故はこの非公式ルートで発生し、下山途中で動けなくなった登山者の同行者があわてて迎えの車が待つ登山口で事故を連絡し、その車が自分の宿まで戻り、警察に連絡、救助隊が向かったようです。救急車が中ノ岐林道の奥にある非公式の登山口まで入れたのかどうか分かりませんが、その可能性は十分考えられます。今回非公式ルートでの事故のためまわりに一般の登山者の姿は無く、搬送を依頼する事ができなかったと思われます。もっとも金曜日の平日で10月に入っての一般登山者は正式ルートでもほとんどいないと思われますが。宿の送迎の条件として人数が10人位にまとめる必要からこの同行者は10人近くいたことが推測されますが、たぶん高齢者のグループのため自分達で迎えの車が待つ登山口まで搬送できなかったとも考えられます。また連絡があった午後4時半では日没(東京で17:24)まで1時間ほどしかなくヘリコプターの利用は難しかった様です。この登山口から小出の病院までは急いでも約2時間(銀山平からは約1時間)はかかり、時間を逆算すると暗くなってから救助隊が搬送を開始している可能性が高く、困難な搬送作業だと想像できます。
考察
鷹ノ巣の登山口からの正式ルートでは若い健脚な登山者で往復12時間位かかるため高齢者が簡単に登れるルートではなく、安易に登山を考えるような場所ではない所で今回事故が発生したため少し驚きましたが、非公式ルートでは5時間程で往復できるとすれば安易に登山を考えてもおかしくはありません。私の平ヶ岳ホームページでは、この非公式ルートを環境破壊の観点から使用しないように薦めていますが、今回この非公式なショートカットルートで起きた事故が、百名山の平ヶ岳がこのルートを使って簡単に登れる山と考えられ、体力の無い登山者でも難なく登れるとする意識を持たれることにより発生した死亡事故と仮定できるならば非常に残念なことです。
その後の確認(小出地区山岳遭難防止協会)
新潟県小出地区山岳遭難防止協会から直接電話で新聞報道を補足する以下の話を伺いました。
新聞記事は小出地区山岳遭難防止協会から発表された内容がそのまま記事になったこと。発表では連絡の内容で「体の具合がわるくなり」や「気分が悪くなった」については「発病」と表現していました。同伴者の人数は22人。当初、本人は具合の悪いことを言い出すことができず、最悪の状態になってから同伴者に伝えたようです。連絡が小出署に届いてから小出地区山岳遭難防止協会と消防署のメンバーで構成された救助隊が現場に到着できたのは、約2時間後とのことでした。救急車はやはり中ノ岐林道の奥にある登山口まで入って待機して、収容後出発したのは19時頃だそうです。死亡に関係した病名は残念ながら聞きそびれました。平ヶ岳の遭難事故については過去にもあり、だいたい2年間隔位で今までも発生しているそうです。
ヘリコプターの利用に関しても伺いました。
今回の遭難でも時間が早く天候がよければヘリコプターの利用の可能性もあったとのことでした。この場合は新潟空港ですぐ飛び立てる状態にあるヘリコプターが出動することになるそうです。ちなみに現在新潟空港をベースとするヘリコプターは新潟県警の「ゆきかぜ:ベル206L-4型」と「こしかぜ1:ベル412型」の2機、新潟県消防ヘリの「はくちょう:S-76B」1機です。また新潟県でこの新潟空港以外に公共のヘリポートはありません。今までも平ヶ岳の遭難事故で実際にヘリコプターが出動したことはあるそうです。